研究実績の概要 |
本研究は、課題遂行中のサル前頭葉より多重電極で記録された局所電場電位(local field potential, LFP)へ電流源(current source density, CSD)解析を施すことにより、前頭葉層構造機能マップを生成することを目的とした。多重電極とは、一本の電極に多数の記録点が正確な間隔で配置された電極である。ある記録点で記録されたLFPの値から上下のLFPを引いた値は、近似的にLFPを発生させる電流に比例する。ある記録点における電流の流れ込みは、近傍の錐体細胞への興奮性シナプス入力を反映していると考えられている。つまり、皮質のどの深さにいつどのような入力があったかを推定することが可能となる。一方、CSD波形にウェーブレット解析を施すことで、ある周波数成分が層構造のいつどこで生じたかも推定できる。LFPは経頭蓋に記録される脳波の元となる信号であるが、CSDとウェーブレット解析を組み合わせることで脳波の発生源を特定できるのである。課題は形操作課題と呼ばれ、先に提示されたサンプル図形のサイズと向きに合うようにテスト図形に順序だった操作を加えることを要求する。解析の結果、外側前頭前野(lPFC)では深層において(皮質表面から2mm付近)サンプル刺激提示直前に電流の流れ込み(興奮性シナプス入力)が見られた。また、ウェーブレット解析により、この入力成分は一過性のα-θ-δ波(13~3Hz)成分であることも判明した。一方、背側運動前野(PMd)では中層(皮質表面から1mm付近)において、テスト刺激提示期に電流の流れ込みが見られた。この成分は、持続性の低いβ波(<20Hz)であった。lPFCとPMdは解剖学的に密接な関係があり神経細胞発火活動にも共通性があるが、本研究の成果は、2つの領野の機能分担の解明に大きく資するものと言える。
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