本研究では、霊長類中隔-海馬系における情報の符号化と読み出しの神経基盤を明かにするため、サルが場所行動課題を遂行中または睡眠中に内側中隔核や海馬CA1領域から神経活動(脳波とニューロン活動)を記録し、周期性活動を示すニューロンの有無、および、海馬脳波徐波成分とCA1ニューロン活動との関連性を明かにすることを目指した。 2頭のサルを用い、まず、直線走路上を往復移動しているときに海馬CA1領域からニューロン活動を記録し、場所応答性と周期性活動に関する研究を進めた。その結果、①総数83個のCA1錐体細胞を記録し、そのうち17個が場所応答性を示すこと、および、②これら場所応答性を示すニューロンのほとんど(17個中15個)はシータ(4-8 Hz)やデルタ(1-4 Hz)の低周波数帯域で周期性をまったく示さないこと(残りの2個は非常に弱いシータ帯域での周期性を示した)などを明らかにした。次に、上記と同様に直線走路上を往復移動しているサルを用い、内側中隔核からニューロン活動を記録したが(内側中隔核は海馬にコリン作動性またはGABA作動性の出力を出しているが、げっ歯類では内側中隔核ニューロンの周期性活動が海馬での周期性徐波を駆動していることが明かにされている)、低周波数帯域での周期性活動を示すニューロンはやはり認められなかった。最後に、サルが眠っているときに、海馬と内側中隔核から神経活動を記録する実験にも着手し、現在、動物の睡眠訓練を進めているところである。 げっ歯類の中隔-海馬系は明瞭な周期性活動を示し、これが空間情報の符号化メカニズムの重要な一要素であるとされているが、本研究ではこうした周期性活動が霊長類中隔-海馬系では見られなかった。従って本研究から、霊長類中隔-海馬系ではげっ歯類とは異なる、動物種特異的な空間情報の符号化メカニズムがあることが示唆された。
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