この数年、急速に権威主義化が進行し、内政の展開について見通しが得にくくなっているトルコでは当初予定から1年繰り上げての大統領制移行に伴う大統領選挙と国会議員選挙が2018年6月に急遽実施された。そこで選挙期間前に現地調査を実施し、与野党の関係者、支持層への聞き取り調査を行った。その調査結果に加え、大統領制移行後の報道や政府公文書等に依拠して、新体制の概要やそれが抱える問題点、選挙における論点等をまとめウェブ上のデータベースで一般公開した(「トルコ」、人間文化研究機構(NIHU)「現代中東地域研究」東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)拠点「中東・イスラーム諸国 政治変動データベース」)。また、イスラーム・アイデンティティを強調する政権下でそうした緊張が続く状況にもかかわらず、イスラームの日常的実践はむしろ世俗化ともとれる様相を呈するようになっていることについて、宗教(イスラム)/世俗という概念を再考する必要を論じた論文「疑似コロニアルな宗教概念に抗するスカーフ」を発表した。また、左翼クルドゲリラとトルコ国軍の対立激化に伴って政府の系列合法政党への弾圧が悪化している最近の情勢をより長い歴史的背景やクルド内のイデオロギー的多様性と関連付けて説明した「トルコの「クルド系政党」」と、大統領制移行後の初の選挙について選挙前の情勢を解説した「2019年3月31日統一地方選挙に向かうトルコ」を執筆し、全体としては短期的な情勢説明と長期的視野に位置付けた学術的考察という異なる意義付けの成果を複数、発表した。
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