研究課題/領域番号 |
26360005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安冨 歩 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20239768)
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研究分担者 |
深尾 葉子 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (20193815)
高見澤 磨 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70212016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | チベット仏教 / 香港雨傘革命 / コミュニケーション / ワラワラ現象 / 文楽 / 婚姻タブー |
研究実績の概要 |
昨年度の香港「雨傘革命」をめぐるコミュニケーション調査に引き続き、今年度は昨今、中国本土で急速に勢力を拡大しつつある、チベット仏教をめぐる事態の調査に着手した。チベット自治区を中心とするゲルグ派が、中国政府によって強い抑圧を受ける一方で、ニンマ派は、四川省のチベット族自治区を中心として活動を活発に展開し、近年、漢人エリート層に浸透しつつある。その中心人物が、色達喇栄寺五明仏学院の高僧である、ソダジ師である。我々は、ソダジ師を東京大学に招き、2015年11月11日に講演会・研究会を開催した。この一連の参与調査によって、発展著しい中国社会に、巨大な精神的空洞が生じ、そこにソダジ師を通じてニンマ派チベット仏教が接続することで、劇的なコミュニケーションの渦が形成されつつあることを確認した。その後も、同地域の仏教の研究者と対話しつつ、また、近世において東アジアの遊牧民世界の精神的支柱であったチベット仏教そのものの歴史的展開を理解することで、表層に見えないところに生じつつある、現代中国社会の巨大な変化を捉えることができたことは、望外の成果であった。 また、中国社会との比較の視点を確保するために、インド社会の研究者との対話を行い、婚姻タブーの違いが決定的に重要であることを理解した。というのも、インドは内婚化を志向するのに対して、中国は他に見られないほどに内婚を忌避する特徴があるからである。更に、日本との比較を行うために、昨年度に引き続き文楽に注目した。この観察から日本では、各自が果たすべき役割への固執が重要なモードを形成し、そのため、我々の言う「ワラワラ現象」がほとんど見られないことを確認した。これは、中国の文学・演劇と比較すると、重要な欠落である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に既に共著の書籍を出版したことは、予想を上回る成果であった。今年度についても、我々が接触したソダジ師は、中国社会で非常に注目される人物で、会うことすら難しいが、この研究を推進する過程で形成した人的ルートを通じて、講演会の開催に成功し、そこで形成されているコミュニケーションの様相を、つぶさに観察することができた。この点で、われわれの研究は、予想を上回る速度で進展した、と見ることができる。また、インドや日本との比較も、思いもしなかった着眼点の獲得に成功し、認識上の転換を形成しうる立脚点を確保したと考えている。ただ、これらを報告書の形でまとめる作業が終了しておらず、両者を勘案すると、ほぼ順調に進展している、ということになる。
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今後の研究の推進方策 |
新たな研究課題としては、中国本土でフィールドワークを続けている若手研究者との関係形成ができたため、彼らの研究を、我々の到達した観点から再検討する作業を中心に行う。また、これと並行し、本年度の成果を報告書化する作業に本格的に着手し、最終段階で、公開の研究会を開催し、成果を広く公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の着眼点や構想の面での進展が著しいことにより、それをまとめる作業が、次年度に繰り延べられたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
若手研究者を招いた研究会開催と、報告書作成のために消化される見込みである。
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