本研究の目的は、中国内モンゴル自治区フルンボイルの多民族集住地域において、社会主義中国の「制度化された多民族性」の時代を生きてきた少数民族自身の生活世界を再構成することで、彼らの対立や葛藤をも含めた民族的な共同性を描き出すことにある。この目的にそって今年度行った具体的調査・研究の概要は以下のとおりである。 2016年8月に、中国内モンゴル自治区フルンボイル地域においてフィールドワークを行った。フルンボイル市ハイラル区を起点として、エヴェンキ族自治旗、新巴爾虎左旗、新巴爾虎右旗、満洲里市等において人びとの生活状況の聞き取り調査を行った。遊牧や牧畜、一部狩猟などの従来からある生業とその変化、さらに観光、ガイドなどの新しい産業、教員や工芸品製作等の現状についての参与観察およびインタビューによる情報収集に努めた。 フルンボイル地域は、モンゴル族、エヴェンキ族、ダウール族、オロチョン族、(中国では民族認定されていない)ブリヤート族など、多様な民族が入り組み合って生活している。モンゴル族については部族ごとの定住の経緯も異なっている。さらに近年では漢族や朝鮮族等の農耕民も増加しており、その移住や定着のプロセスについて、各民族の視点からの歴史的経緯にかんしても聞きとり調査を行っている。 さらに、これらの現地調査にもとづき、2016年11月13日に北京第二外国語大学で開催された中日学術シンポジウム及び中日社会学専門委員会成立大会において、「中国周辺地域における社会主義的近代とジェンダーにかんする研究視点」と題する研究報告を行った。
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