本研究はエチオピア西南部を主な調査地として土器をめぐる創造的実践知の生成とマテリアリティの変成をあきらかにすることをめざす。最終年度は、土器つくりにおいて見いだされはじめた3つの特色、「観光化」「工業化」「非宗教化」、に関わる事象を人と「もの」との関係性に留意して検討した。この研究課題が開始された平成26年度から現在にいたるまで、主な調査地にしていたエチオピア西南部農村は、社会的な変化に直面した。たとえば、この地域の主要な村が市へと昇格し、村内の区画整備がすすみ農地が宅地へ変更され、これまでとは異なる税金徴収のしくみが導入された。それにより、人びとはこの地域で生活していくために、これまで以上に現金が必要な状況に直面している。このなかで、土器を製作する職人たちは、これまでのように土器を製作して地域内の市場でそれらを販売して生活を営んでいた。職人たちは、製作方法の標準化や規格化といった大量生産をめざす方向を志向するのではなく、多様な顧客の需要にあわせて製作を続けていた。「観光化」「工業化」「非宗教化」という傾向性を見いだすことができるが、現在の社会状況のなかでは、それらは土器つくりの主要な実践には結びついていないことが示唆された。これに加えて、Humanities Korea国際会議においてこれまでの研究成果を発表し、アジアにおけるアフリカ研究の学術的交流を行った。またこれまで研究活動のなかで注目してきた手の文化的な特徴を、生物学や医学的な研究に関わる異分野の研究者とともに『手の事典』で発表することができた。さらにライデン大学アフリカ研究センターにおいて、これまでの成果をふまえたうえで、「もの」の評価に際して、要・不要の基準や「価値」の基準が生成されていく過程を把握していくことを念頭におき、「もの」が創り出されたり、反対に廃棄されることに関して予備的な考察を発表した。
|