研究課題/領域番号 |
26360012
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
柴田 佳子 神戸大学, その他の研究科, 教授 (30183891)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カリブ海 / アジア系(中国系) / クレオール / ディアスポラ / ジャマイカ / 客家 / トランスナショナル / トロント |
研究実績の概要 |
カリブ海英語圏社会の代表格ジャマイカを中心的に取上げ、特に中国系の動向や混血に関する具体的資料収集を行った。2014年はジャマイカへの中国人移民到来160年記念行事があり、それに向けた中国系民族組織(中華會舘)の顕著な活動のあり方は、誰に向けてその存在や志向を発信しているか、社会全般に向けての姿勢など集合的動向を探る上できわめて重要な年だった。また、そのような中心的組織に必ずしもコミットしていない中国系のあり方との温度差も実感できた。混血系は常に微妙な立場にあったが、混血ゆえの容貌など可視的な差異より、社会経済的地位などに大きく左右されている状況や揺れ動くアイデンティティの様相なども、インタビュー調査から、ある程度把握することができた。 ジャマイカの中国系の大半が客家系であり、改革解放後参入した多数の広東系新移民との相互関係やジャマイカ社会全般との関係にも留意しつつ、客家としてのサブエスニシティのあり方について興味深い動向を見取ることが可能だった。客家の独自性理解のため、国際客家会議に招待されたこともあり、研究発表し、客家専門家との意見交換、多様な客家文化視察や移民研究者の故郷再訪問同伴の機会を得た。発表論文も出版予定である。 また、60年代後半、特に70年代のジャマイカ左傾化時から(再)移住した北米在住者とその家族、コミュニティ形成がもたらしたトランスナショナル・ネットワークの様態、生活実態、チャイナタウンの動向などを探るため、重要拠点かつ結節点であるカナダのトロント大都市圏で予備的概況調査をし、彼らの独特の微妙な位置づけの理解に役立った。 英国バーミンガムでの国際会議でも中国系墓地の急速な大規模改変事業を通したエスニシティのあり方について研究発表し、良いフィードバックを得た。現場および研究者間の新たな人脈作りにより、今後さらに多方面への進展が可能となる展望を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
精力的に展開する計画を練り、隙間時間も惜しまず研究を進める努力は怠らなかったが、交付申請時には予想できなかった避けられぬ公務が激増し、本研究に避ける時間に大きな制限があった。中国での国際客家会議開催中に誘われたパナマで開催される華僑国際会議での発表が公務時期の関係でかなわなかった。2014年はパナマ運河開通100年記念、運河や鉄道建設でも重要な労働力となり、ジャマイカはじめカリブ海への再移民した中国人の足跡と貢献を再評価すべき年だった。まだ会ったことがない世界的に著名な中国系ジャマイカ人なども参加予定と聞いていたので、多様な側面で非常に残念だった。 ただ、ジャマイカ調査中にパナマへの移民関連でインパクトの大きな著書を出版したばかりのトロント在住知識人とは講演会で会い、有意義な意見交換をすることができた。 ジャマイカで近年再開された、民族墓地で毎年実施される祖先儀礼ガーサン(掛山、清明節)が、2015年は4月5日、イースター当日となる、と現地調査中に教えてもらい、日取りの決定(中国系は現地化の過程でカトリックになった人が多く、イースターの次の日曜に通常は開催してきた)について、また儀礼の大きな変化、墓地の大規模改修整備も過去2年顕著に見られているので、インタビューと参与観察とのため、再訪を現地で約束していた。実施に向けて計画は立てたものの、これも公務のため実現がかなわなかった。 しかし、現地調査で得た新たな資料や知見をもとに、研究対象への考察は深めている。国際客家会議で口頭発表した論考は新たに資料を加えた考察をもとに完成させ、雑誌特集号に中国語訳(原文は英語)として論文掲載される予定である。もう一つの国際会議「カリブ視覚文化会議」での発表原稿も出版に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、前年度で得た新たな人脈をもとに、さらに詳しいインタビューがジャマイカで、また在外ジャマイカ系を対象に実施できるように現地調査で工夫を重ねる。人の移動も頻繁なため、昨年初対面の人のなかにも家族親族、知人友人を頼りに国内移動、さらに主に北米移住の可能性をほのめかしていたこともあり、追跡調査に時間がかかることも勘案して人脈の多極化を試みる。教会や民族組織の動向やその指導層の考え、言動を継続して把握していく。インターマリッジや混血の当事者のインタビューを重ねる。 南米のガイアナでも調査を再開すべく計画を練る。調査時期、期間、訪問滞在地を慎重に選択し、継続調査による成果が出せるように旧知の人脈を利用する。特にインド系と黒人系の混血ダグラについての調査は、以前の実施時には調査を始めてから政治的激変があり危険が伴ったので、慎重に現地情報を収集しつつ、計画を練る。ただガイアナについては日本で入手できる文献はほぼ皆無であり、その他の情報も非常に限界があるため、現地で図書資料やアーカイブ、雑誌など新たな発掘、収集が不可欠である。インフラ整備の遅れ、特に交通網の未整備、移動手段の限界などを考慮して調査対象を選定する。 今年度も公務が激務と予想されるため、申請当初計画していたほど時間を割くことは困難かもしれない。しかし、できるだけ機会を得て、海外の研究者と直接会って意見交換しつつ、進展させることで新たな展望も開くつもりである。日本では難しいカリブ海研究者の多専門領域からのフィードバックを得るだけでなく、欧米系が中心の研究者たちが従来軽視してきたアジア系、特に中国系のダイナミズム、なかでも微妙な位置にあるアジア系混血について現地調査をふまえた情報、知見を積極的に公表することで貢献することを目指す。収集できた資料の整理、分析にかける時間をいかに確保するか工夫を重ねる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年9月~10月はじめにかけてのジャマイカでの現地調査の過程で、重要な儀礼の日程が2015年4月5日になることを教えてもらったため、その参与観察とインタビューの重要性に鑑み、再訪することを約束していた。2015年3月下旬から短期追跡調査を実施する可能性を残していたため、9月の現地滞在費を切り詰め、この分の旅費と最低限の滞在費を確保する必要があったから。しかし予想外の公務負担の激増により、海外渡航がかなわなくなり、次年度に先送りした。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度には、前年度の積み残し分をふまえ、現地調査を複数回実施する計画を立てている。また、翌年度に研究発表を希望する国際学会にも参加し、研究者人脈づくりや学会の様子の詳細な観察などをして参考にする。
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