研究課題/領域番号 |
26360012
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
柴田 佳子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30183891)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 混血 / クレオール / ジャマイカ / カリブ海 / ディアスポラ / 異種混淆 / 中国系 / 客家 |
研究実績の概要 |
カリブ海地域のアジア系、特に中国系の土着化、現地化、クレオール化、異種混淆、ディアスポラ、混血に関連する文献研究を進めた。直接対象とする文献は非常に少ないが、比較や有意な参照枠になりそうな参考文献の幅を広げ、既読文献の批判的解読から、これまでとは異なる視点や別の解釈の可能性も探った。英米、カナダのカリブ系、中国系、アジア系をめぐる多文化共生の動向も視野に入れ、昨今顕著なガイアナ、スリナムへの中国企業進出や新たな出稼ぎ、移住者の現地社会への影響や懸念、現地中華系の動向について、ウェブ新聞雑誌記事、HP掲載情報などに注目して状況理解を深めた。 最大の成果を得たジャマイカのフィールドワークにより、貴重な資料、情報、知識、見解を収集、蓄積した。培ってきた人脈とも派生的に繋がる重要な人間関係も新たに構築でき、聴き取りの幅、内容や量も増大し、重厚になった。研究者ネットワークもさらに緊密になり、拡充した。多様な世代、階層、職種、立場の男女の当事者たちとの再会や新たな邂逅、訪問先での観察や聴取から、混血ゆえの複雑さは多様きわまり、語り得ぬ事も多いが、(再)確認や新たな発見、諸変化を認識できた。視覚的変化が大きい展開に中国系混血も重要な役割を果たしているため、中華会館、民族墓地、新設庭園(ナショナル・トラスト指定公園内)などで継続調査した。これら一次資料の整理、分析は時間を要するが、テーマ別に研究発表や論文にまとめる予定である。 次年度発表予定のカリブ国際学会に参加し、意見交換、議論を通じ、発表の方向性に関しても示唆を得た。国内での中国、華僑華人、特に客家系に関連する国際研究集会やセミナー等にも積極的に参加し、国内外の参加者、研究者からも多くを学び、比較検討に有意義であった。 依頼されたカリブ海華僑華人に関する事典項目も執筆した。国際客家会議での発表英語論文を出版に向けさらに加筆修正した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた多量の文献読解や一次資料収集(フィールドワーク)とその整理・分析にかけられる時間が、公務の超多忙も続き、限られた。(特に10月までの前半期、所属先の直属コース教員5人中2人が不在となり、その分の負担も増大したため) 研究教育で長年用いてきた「ディアスポラ」、「クレオール」や「異種混淆(ハイブリディティ)」については再考を重ねたが、さらに独自に収集してきた資料をもとにさらに可能性を広げ、議論を深める展開を狙うための方策の一つとした、ラテンアメリカのメスティサッヘの議論との比較、接合の可能性についてはまだ途上にある。文献研究では予想以上に、非常に有効とみなせるものを見いだせず、渉猟した文献の批判的考察でも不十分なところを残している。 査読結果で受諾された国際学会での発表や予定していたガイアナでのフィールドワークも余裕がなくなり、次年度に延期せざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
4月上旬、2016年中にケンブリッジ大学出版会から出版予定の本(Dragons in the Archipelago)の編者から、カリブ海地域の特に中国系の調査研究に関してインタビューを申し込まれたため、その依頼を受けて質問内容の精査をして応答する。その内容は上記本に掲載される予定。 昨年度末、中国の中山大学 海外華僑華人研究センター(the Center of Overseas Chinese Study at Sun Yat-sen University)発行の学術雑誌に掲載するため、口頭発表英語論文(2014年国際客家会議での発表)の最終編集作業の依頼があったため、それに着手する(長い英語論文の中国語訳は不可能と判断され、要約のみ中国語訳)。 ジャマイカでのみならず、ガイアナでのフィールドワークも実施する。ただし、7月上旬に予定しているカリブ国際学会での研究発表、10月には別の国際会議での研究発表も受諾されており、論文執筆、口頭発表の準備にかける時間を熟慮し、夏期休暇中のフィールドワークは9月中旬までで切り上げ、別の時期での計画を立てる必要があると考えている。 文献研究やこれまで収集した資料の整理分析は同時進行する。 世界の華僑華人研究の成果により、現地化、混血化が進行し、独自のコミュニティや文化を醸成した東南アジアの諸事例やメスティサッヘとの比較考察の有用性についても慎重に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前半期に、公務で予想外の過密スケジュールとなり、計画していたジャマイカでのフィールドワークの期間を縮小し、ガイアナでの比較的長期のフィールドワークを延期せざるをえなかった。また10月に発表予定だった東アジア人類学国際学会での発表を急遽キャンセルせざるをえなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
ガイアナ(可能ならば何度か調査経験ある隣国スリナムも)でのフィールドワーク、カナダ(トロント)でのフィールドワークもジャマイカでのフィールドワークに加えて実施する。7月のカリブ国際学会での発表は計画当初から予定していたが、10月の国際会議は、2年前から参加を強く希望していたもので、前年度に研究発表募集の情報を得て申請し、受理されたので、この機会を最大限利用する。またロンドンでの調査、資料収集にも充てる予定である。 夏期休暇中に実施する予定のガイアナでのフィールドワークの内容も少しでも盛り込むつもりであるため、資料整理などの人件費にも従来以上の費用を充てる。 中国の研究者から英語論文などの中国語翻訳がほしいといわれてきたが、費用として可能か探る。ただしカリブ海地域に精通する中国語母語者が非常に少ないため、内容として翻訳可能か不明である。
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