最終年度となる本年度では、2014年から2016年の三か年に渡ってチベット本土で継続された「干支年巡礼」(特定の干支の年に、その干支にちなんだ縁起を持つ聖地を参拝するため、チベット仏教徒の間で大巡礼ブーム(ニンディ)が生じること)が完了したことを受け、それぞれの聖地(2014年午年=アニ・マチェン、2015年未年=ツォ・ゴンボ、2016年申年=ヂャカル・ゼーゾン)で行った個別の実地調査資料をとりまとめ、全体をひとつの大枠的な流れをもつモノグラフ資料として組み上げる作業を行った。作業は年度前半と後半の2つの行程に分けて、下記のように進められた。 1)年度前半:2016年申年巡礼の対象地となったヂャカル・ゼーゾンでの現地調査結果を論考化し、学術雑誌に投稿した。併せて、この成果をこれまでの各年度に蓄積した個別聖地の信仰動態に関する現地調査データと比較し、その相違を洗い出した。 2)年度後半:現代チベットの村落社会に暮らす人々にとって、聖地巡礼という宗教経験が持つ意味を解析するため、これまで現地で収集した文献・図像資料と、現地での参与観察から得られたデータの関連付けを行った。それぞれの聖地が置かれた地理的・経済的環境条件とそこでの信仰空間の形成に見られる特徴とを横断的に検討し、全体を統合的に捉えるための作業仮設を構築した。 また、これまでの三年間のニンディにかかる調査データ全体をアジア全体の仏教的世界観の中で位置付けて捉えるため、インド側のチベット社会、並びに北インドで整備が進められている仏教聖地に短期調査を行い、中国の中に置かれたチベット社会の現状を相対的に捉えるための補足的な調査データを収集した。
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