本研究では、中国政府の過渡的な近代化プロセスの元で再編されるチベット東部地域の民衆的な宗教経験について、12年ごとの周期で訪れる「ニンディ」(聖地集会)と呼ばれる大規模な巡礼活動を対象に検討した。 現地調査では、個別の聖地に対する宗教表象の増加と、これに対応する信徒集団の空間的実践の関係を、インタビューと参与観察から浮き彫りにした。この結果、①信徒による現場での信仰経験、②関連する経済活動、③関連する政治的統制、の3点において、従来のチベット研究が払拭しきれなかった「民衆の宗教行為に対する外在的な理解の枠組み」を乗り越える上で必要な視座について見通しを持つことができた。
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