研究課題/領域番号 |
26360035
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
金谷 美和 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 外来研究員 (90423037)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 災害 / 手工芸 / インド / ローカル文化 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
本研究は、自然災害後のローカル文化の再編について明らかにすることを目的に、インド、グジャラート州において2001年の地震で甚大な被害を受けた更紗の生産者たちを対象に文化人類学的研究に取り組んでいるものである。生産者たちは、危機的状況にあった生業を復興・維持するために組合を結成し、新村を建設して生産基盤の移転をはかっている。その過程で彼らは、「手工芸」をコミュニティ資源として活用することで、国内外の支援をあつめ、新村建設を成功に導いた。本年度は、インドにおける現地調査を1回(3月26日~4月5日)実施した。さらに、これまで調査をおこなった被災村やその周辺で生産されてきた染織品資料についてのデータ整理をおこなった。また、東日本大震災の被災地において手仕事を媒介として住民の復興にとりくむ事例を見学した。 前年度までの研究において、在来技術による染織品「アジュラク」を新村の名称につけたことが新村建設の推進力となったことを示したのであるが、今年度の研究では、あらたに次の2点をすすめることができた。①在来技術に依拠した多様な染織品のうち、「アジュラク」という特定の染織品だけが、新村復興のシンボルとなった背景を明らかにした。②「アジュラク」の知名度があがるにつれて、生産需要が増加し、雇用創出につながっていることを明らかにした。雇用を求めて周辺村から新村への移住希望者があらわれるなど、染色産地として安定した発展がみられることを示すことができた。それによって、自然災害被災から村の建設にいたる、ローカル文化の復興にかかわる民族誌的データを、一部を除いてほぼ包括的に収集することができ、民族誌の執筆にとりかかることができた。また、招待講演などの研究成果のなかで、東日本大震災の事例と相対化し、本研究のテーマの意義を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、課題1と課題2からなる。課題1は、新村建設を契機としてカッチ地方に散在する染色業拠点が「産地」として統合されていく経緯を示すことであった。課題2は、①在来技術による染色品生産が「手工芸」という概念と領域に包含されていくこと、②「手工芸」がグローバルに通用する記号となり、支援のネットワークをつくること、③そのネットワークが新村建設の推進力となったことを示すことであった。研究課題1、2ともにおおむね順調に進展することができた。 研究課題1に関して、前年度までにおこなった世帯調査の追跡調査をおこない、産地統合がすすんでいることを明らかにした。さらに、生産需要の拡大にともなって、旧村以外の周辺村からの移住者を確認し、産地が安定して発展していることを明らかにすることができたなど、おおむね計画通りに進捗している。 研究課題2に関しては、前年に引き続き、インドと日本において染織資料の検討と関係者へのインタビューを行った。染織資料データの整理により、多様な染織品のなかから「アジュラク」のみが、コミュニティの共有資源としてシンボル的に活用されていく過程を明らかにすることができた。生産者が「アジュラク」の展示や販売のために国内外のファッションショーや大学に招待される事例が観察され、そのような生産者たちが、「アジュラク」をどのように表象しているかについての聞き取りデータを収集することができた。このような良好な調査環境や研究協力を得ることができたために、研究計画どおり順調な進捗状況をみることができた。研究成果については、宮城学院女子大学、東北学院大学における招待講演、国立民族学博物館における研究発表にて成果発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の計画通りインドでの現地調査(9月に2週間程度)を行う。アジュラク村建設過程について組合代表にインタビューを行うほか、今年度の現地調査によって判明した課題について集中的に聞き取り調査をおこなう。その課題とは、コミュニティ資源として活用された「アジュラク」のオーセンティシティをめぐる対立がコミュニティ内部で発生していることである。これまでは、「アジュラク」の取り扱いに対してコミュニティ間での対立は観察されなかったが、生産量が増加するにつれて、コピー商品の生産が増加し、本物と偽物の区分や、アジュラクは誰のものなのかという認識に齟齬が生じるようになっている。ローカル文化について重要な論点が現場で発生していることを真摯にうけとめ、最終年度の研究において解明に迫りたい。最終年度のため、現地調査は年度前半におこない、データの整理と・分析をすすめ、民族誌の執筆に集中する。 また、東日本大震災の被災地に関する文化人類学的研究の成果が続々とあらわれ、本研究の研究課題と関心を等しくするような、災害被災地の文化変化や文化復興を論点とするものが注目された。震災から15年経過した本研究の成果は、日本の事例研究にとっても意義があることを改めて確認した。他の被災地の事例やそこで論じられている文化を主題にした復興や文化変容についての研究を参照し、比較研究が可能になるような論点を提示することも視野にいれて民族誌執筆をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に実施したインド現地調査を、計画よりも短縮したために、当初予定に比べて出張費に余剰が生じた。年度末であったために使い切ることができず、次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に計画しているインド調査の旅費として使用する予定である。
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