今年度は、まず、日本、韓国、台湾、中国の主要新聞等に表れた「出生前遺伝学的検査」の記載についてデータを整理し、言説分析を行った。その結果、日本の記事では、適切なカウンセリングや、診断をもとに妊娠を継続するか否かの選択に関する記事が中心をなしていた。これに対して、韓国、台湾、中国の記事では、次のような共通点が見られた。「出生前遺伝学的検査」利用におけるカウンセリング、受検に関する倫理的な諸課題などについての記載は皆無に等しく、障がい児の出産を予防するために出生前検査の必要性が示されるとともに、「出生前遺伝学的検査」の技術の詳細についての紹介が主であった。 次に、韓国、台湾における「出生前遺伝学的検査」の規制、提供状況やについてインタビュー調査を実施した。韓国社会では、「生命倫理および安全に関する法律」が一部改正(2016.6施行)などの規制の変化に伴い、「出生前遺伝学的検査」は、NGSの導入や韓国独自の技術開発によりサービスが拡大されていた。台湾では、「出生前遺伝学的検査」における独自の技術はもっていないものの、海外との連携により社会に広く普及されており、提供側は成熟期として認識していた。 最後に、これまで実施した一般人対象のフォーカス・グループインタビューのデータを整理した結果、次のような特徴がみられた。日本のインタビューイ―からは、受検に対して葛藤と選択のはざまで揺れながらも実際に育児を担当するのは女性であることから、その負担感が窺えた。韓国では、障がい児が生まれた場合の経済的負担や育てることへの不安感などへの解消として、出生前検査はやむを得ない選択であるという意見があげられた。台湾では、子どもを産むことは、2つの家族に係ることで重要であること、「生まれてくる命より今の私たちが大事」であることから、障がい児出産の「予防検査」として出生前検査は有効であるという認識があった。
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