研究課題/領域番号 |
26360040
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
姫岡 とし子 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80206581)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジェンダー / ナショナリズム / ネイション / 近代ドイツ / フェミニズム / 反フェミニズム |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究の過程で獲得した知見を生かしながら、まず『歴史を読み替える-ジェンダーから見た世界史』の項目執筆と編集作業を行った。 その後、過去のドイツ滞在で収集したり、日本で入手できる史料や研究文献を読みながら、日本とドイツの反フェミニズムとナショナリズムの関連について研究し、成果として、「日本とドイツの反フェミニズムとナショナリズム」『政策科学(立命館大学政策科学部紀要)』22号第3巻(2015年3月)を刊行した。ここでは、歴史的な反フェミニズムだけではなく、現在の状況についても取りあげた。現在の日本では反フェミニズムとナショナリズムの結びつきが強く、家族の絆を維持・強化し、公共心や愛国心を育ませて日本の伝統と美徳を守ろうとするナショナリズム勢力が、ジェンダーにとらわれない個人の能力の伸張を唱え、自己決定権を擁護し、家族の個人化や多様化を容認するフェミニズムに激しく敵対している点を指摘して、ドイツの反フェミニズムと比較した。ドイツの場合はナショナリズムとの結びつきは弱く、男性犠牲者論、すなわち女性の地位向上をうながすジェンダー政策によって男性が犠牲を強いられているという論点が強く出ている。現在の日本の反フェミニズムは、現在のドイツではなく、むしろフェミニズムを「家族の破壊者」で、「亡国を導く」、「共産主義革命勢力」として非難した第二帝政期の反フェミニズムとの共通性の方が強いことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に関する個別論文「日本とドイツの反フェミニズムとナショナリズム」というタイトルの論文を公刊することができた。他に、本年度は、5月に『歴史を読み替える-ジェンダーから見た世界史』という書物を編者として刊行することができた。この書物では、本研究の成果を生かす形で、ナショナリズム、軍隊、フェミニズム、反フェミニズム、戦争など、本研究のテーマと関連する数多くの項目について執筆した。
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今後の研究の推進方策 |
今年は第一次世界大戦中の女性運動の活動について取りあげる。総力戦となった戦争において、銃後の組織化を担った女性たちの活動に、それ以前の福祉活動での実績がどう生かされたのか、保守、リベラル、社会主義という3つの女性運動はどのように、銃後の城内平和を達成したのか、戦況が深刻化するなかで、その城内平和がどのように変化していくのか、などについて検討しながら、女性の政治化がどう進展していったのかを考察したい。今年はドイツに史料収集に行き、植民地関連の研究も前進させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
史料収集のためにドイツに行く予定であったが、当面は、以前集めていた史料や日本で入手可能な文献で研究を進めたため、ドイツ行きを中止した。それが、研究費が残った最大の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度はドイツに行って史料を収集する。おそらく2回ドイツに行くことになる。また夏には国際歴史学会のために中国に行き、その帰りにドイツの植民地であった青島のドイツ租界などを見学し、植民地時代の史跡をたどる旅をするのに支出する。
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