本研究は、終身雇用、年功システムによる男性の日本的雇用慣行との対関係において形成された女性労働の雇用慣行とその労働-生活史の変容を、近代家族規範との関係において明らかにすることを目的としている。もっとも重視したのは、女性労働と家族をめぐる相互関連を方法的にいかに捉えるべきかをめぐって、国内外の文献サーベイ、国際学会での最先端の議論への参加、国内外の専門研究者からレビューを受ける機会等を通じて、方法論を彫琢することにおかれた。その成果は「女性たちはどこでどのように働いてきたのか-女性労働研究の課題と方法を再考する-」(中谷文美・宇田川妙子編『仕事の人類学-労働中心主義の向こうへ-』世界思想社、2016年)や、「戦後日本の家事労働の位置を探る-企業社会・雇用労働との関連で-」(『経済社会とジェンダー:日本フェミニスト経済学会誌』第1巻、2016年)として発表した。 本研究のもう一つの柱は、こうして吟味した方法論を用いて、製造職に従事する既婚女性労働者の労働-生活史のインタビューデータを基礎に、上記の課題に実証的に迫ることにある。そのために、研究の着手時点では八王子織物業を主要対象として設定し、都市化に伴う地域と家族の変容を把握する構想を描いていた。だがすでに当該地域の既婚女性労働者の詳細な聞き書き集が存在することが判明したため、これをできる限り生かした比較研究を構想するに至った。これらの既存データを大都市圏域のものと位置づけて利用しつつ、地方圏として福井県勝山市の調査事例に関するさらなる実態調査と資料収集を重ね、これをメインの実証データとして用いる方向へと転換をはかることとした。この成果をジェンダー史学会(2017年12月)で報告し、『家族・地域のなかの女性労働』(明石書店)として刊行するための最終執筆段階にある。さらに今秋の労働社会学会にて報告し、論文執筆の予定である。
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