研究課題/領域番号 |
26360044
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坂元 ひろ子 一橋大学, 社会学研究科, 特任教授 (30205778)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 1930年代中国 / 1950年代中国 / 漫画雑誌 / 中華人民共和国 / 政治運動 / 毛沢東 |
研究実績の概要 |
これまで中国、20世紀初頭、清末の『図画日報』等以降、漫画雑誌として画期的な1920年代末の『上海漫画』、その制作画家の人脈による諸漫画雑誌、ことに1930年代半ばの『時代漫画』、日中戦争勃発後の同人脈による『救亡漫画』『抗戦漫画』等の分析を手がけた基礎をふまえ、本研究では戦後から中華人民共和国成立後についても1950年代を通じて刊行された『漫画』月刊を主に扱い、清末からの流れに接合して分析をおこなう。 平成26年度は中国、西安、西北大学での第五回中国近代思想史国際学術研討会における講演の招聘を受け、清末から20世紀を通した「中華民族」概念をめぐる研究発表を行うとともに、陝西省博物館や延安革命記念館で人民共和国の政治運動モデルが形成された延安解放区時代の視覚資料を調査した。北京にも立ち寄り、交付申請後に判明した北京大学所蔵(部分的)の『漫画』月刊を調査した(未完)。 取得済みの限られた図像の分析では、上記1930年代漫画雑誌で活躍した主要な漫画家のうち、少なくとも10名は中華人民共和国成立後、1950年代『漫画』月刊にも登場、編者となるものもいた。希少な女性漫画家は台湾に移ったため、男性漫画家のみで、漫画の中心人物は男性が多く、早い時期から毛沢東を特別視し、それを「後光を描く」ことによって表現する中心化手法も早くからみられることが分かった。また、最初は主たる男性を支える従の位置において描かれた女性は、1950年公布の中華人民共和国婚姻法のキャンペーンを通して、その存在感を増し、革命女性形象が作られていくこともみてとれる。抗日戦争以降、内戦・革命を経るごとに画風を変えた多くの漫画家たちが1950年代後半からの大政治運動の中でどう変わるか、ジェンダー視覚をいれて引き続き観察していくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度はスタンフォード大学の東アジア図書館所蔵の『漫画』月刊の収集作業に時間を割くことにしていたところ、体調不良で渡米ができなかった。しかし、中国、西安でのシンポジウム参加後に北京に立ち寄って、申請後に判明した北京大学所蔵分を調査した(未完)。予備調査で収集していた中国国家図書館所蔵分を中心に、ことに政治運動が過激化する以前の1950年代中頃までについては、分析対象とすべき漫画・漫画家群の特定がほぼでき、見通しがついてきた。 また、京都国際マンガミュージアムでの旧植民地の漫画雑誌調査も行い、同所で漫画史研究家の清水勲氏とも研究交流ができた。探していた1940年代の戦時の『上海生活』と時期が重なり、漫画も収録する戦時・戦後の雑誌『永安月刊』(マイクロ・フィルム)も入手し、資料が手薄な時代についても収集がおおむね順調だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度にスタンフォード大学の東アジア図書館所蔵で『漫画』月刊の収集作業に当たる予定ができなかったので、平成27年度にそれを実施、できれば北京大学でも収集を行い、可能な限り、全冊に目を通したい。 引き続き、リサーチ・アシスタントを雇用して、収集した漫画画像データの整理入力作業と分析作業を進める。 平成27年度、すでにベルリンの新視覚芸術協会において漫画芸術に関してジェンダー観点をいれた分析をもちいた講演をおこなって意見交換をしているが、中国ほか適当な場でさらに成果の一部を発表しておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度夏期休暇中にアメリカ、スタンフォード大学と北京の中国国家図書館と北京大学に行き、長めに滞在して資料収集をする予定にしていたが、病気のため見送らざるをえなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
まず、ベルリンでの講演に行き、1930-40年代中国漫画に影響を与えたドイツの文化の資料調査も行い、夏にはアメリカ、スタンフォード大学、また必要に応じて北京の中国国家図書館と北京大学にも赴いて『漫画』月刊収集作業を可能なかぎり終えられるようにする。次年度使用額は平成27年度交付額と合わせてこれらの旅費として使用する。
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