研究課題/領域番号 |
26360044
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坂元 ひろ子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任教授 (30205778)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジェンダー / 漫画雑誌 / 抗日戦争期 / 1930年代中国 / 1940年代中国 / 思想文化史 / コロニアル・モダン / 諷刺漫画 |
研究実績の概要 |
平成27年4月、ベルリンにおけるInternational workshop: Banned Imagesにおいて「コロニアル・モダン上海の女性漫画家と戦争―ポストコロニアルの地平から」について発表した。あわせてベルリンのケーテ・コルヴィッツの作品を集めたケーテ・コルヴィッツ美術館での調査によって、コルヴィッツの1924年のポスター「二度と戦争はしない!」が中国抗日戦争期の梁白波(女性画家・漫画家)の闘う女性を表象した漫画作品に大きな影響を与えていることをつきとめた。ドイツのモダンアートの中国への影響も大きいことが確認できた。 平成28年3月のオーストラリア国立大学での “Reconciliation and the memory of conflict in East Asia” 講義においても抗日戦争期の漫画を用い、同大学および中継されたハワイ大学の院生からもあわせて高い関心が示された。 継続中の図像分析面では、平成26年度に取得した『永安月刊』の分析を一通り終えた。戦時中を通して漫画も掲載した永安百貨店刊行の文芸雑誌で、共同・フランス租界地を残していた「孤島」期は生活難をテーマにした漫画が増え、1941年末以降、完全に日本軍占領下に入ると、百貨店は日本資本に接収され、「苦しみの中、楽しみをみつける」方針に転換、諷刺漫画の面白さを失っていたさまがみてとれた。ジェンダー規範も戦時中だけあって、家庭の幸福に責任を負う主婦を讃え、いかに聡明強壮な児童を育てるかについての議論が多見される一方、日本とは異なり、資本の要求に応じてであろうが、美容関係の話題も途絶えなかったことが分かった。 平成27年度の研究の多くの時間は『中国近代の思想文化史』の執筆に割かれ、収集した漫画を活用し、ジェンダー観点もいれることで、19世紀前半からの近現代の中国思想文化史を従来にないものとして提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと平成26年に予定していたスタンフォード大学東アジア図書館における資料収集の一部が平成27年度にも実施できず、終了していない。だが収集分の図像も用いた著書の出版にこぎつけることができ、より詳細な研究全体の見通しができてきた。よって、大局的にみて、おおむね順調だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年5月には広州を中心に広東での先駆的な近代漫画収集を行い、平成26年度に予定していたスタンフォード大学東アジア図書館所蔵の『漫画』の収集を平成28年度中に実施する。また最終年でもあり、予定通り、モスクワとサンクトペテルブルクを訪れ、サンクトペテルブルク大学および美術館で東洋学部の教授と交流をして漫画資料調査をおこない、ロシア文化の影響を分析する。 平成28年6月に香港城市大学での「トランス・ナショナルな歴史学と戦争責任国際学術シンポジウム」に招聘されており、漫画資料を用いて「戦争表象から記憶と歴史的な責任を考える:抗日戦争時期の漫画を例として」の報告を行う。あわせて、香港博物館で香港漫画とポスターの収集を行う。 また平成28年7月には京都の同志社大学で開催されるアメリカ・アジア学会アジア大会(AAS-in-ASIA2016)でオレゴン大学Bryna Goodman教授らのパネル"New Women, Feminist Activists, Concubines, and Prostitutes: Divisions and Dialogue in the Afterlives of Chinese Polygamous Practices"においてコメンテーターをつとめる。 「中国民族主義とジェンダー」(『中国ジェンダー史研究入門』京都大学出版会)の発表の準備も終えており、1950年代以降に力点を移しながら、総括的な論文の準備にかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に本の執筆に時間が割かれたことで、もともと平成26年度予定のスタンフォード大学での『漫画』月刊の収集作業が平成27年度にもできなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
広州博物館、香港博物館(ただしシンポジウム参加のためその期間の旅費・滞在費は相手方の負担)、スタンフォード大学東アジア図書館、モスクワ大学、サンクトペテルブルク大学・美術館、京都マンガミュージアム、時間の余裕があれば北京大学図書館にもでかけ、資料調査をおこない、リサーチ・アシスタントを雇用して収集した漫画画像データの整理入力作業と分析作業を進める。
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