平成29年度は、前年度から繰り越した最終年度の研究期間である。主に、「軍事主義から見る女性美術家と視覚表象」のテーマのもとに行った研究報告書『特集:谷口富美枝研究-論文・資料集』(2018年1月発行)を作成した。戦時下に活躍した女流美術家奉公隊の主要メンバーの一人であった谷口富美枝(日本画家)について、補足調査を行い、遺族・美術史研究者・学芸員・新聞記者らの論考と、谷口富美枝自身の書いた自伝的小説、年譜、文献資料一覧などを所収し、谷口に関する包括的な報告書としてまとめた。 本科研は、1930年代から50年代にかけての日本及び東アジア圏の女性アーティストと戦争との関わりについて、ジェンダーと軍事主義、移動の視点から捉え直すことを目的としている。具体的には、①アジア・太平洋戦争期と占領期を経た戦後における女性画家の歴史と実践の調査、②日本の植民地化と戦争が与えた東アジア圏の美術・文化表象のジェンダー的分析、③当該時期の女性美術家自身による文章の収集と、基本文献集の編纂・出版、④戦争画を描いた女性画家を論ずる研究者との国際的な交流であった。 最終年度でまとめた谷口富美枝研究は、戦時下に女流美術家奉公隊の日本画部の代表として活躍した谷口富美枝を、戦時下だけの活動にとどまらず、戦前・戦後を通してその制作活動と人生の足跡を徹底して調査し、初めてまとめたことの成果は大きい。2018年1月には谷口富美枝の作品を所蔵する呉市美術館でも関連展覧会が開かれ、同館で講演会、及び第3回「谷口富美枝(仙花)」を開催した。
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