研究課題/領域番号 |
26360049
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中川 和子 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (20284747)
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研究分担者 |
猿渡 淳二 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 講師 (30543409)
鬼木 健太郎 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (00613407)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬物有害反応 / 性差医療 / 個別化医療 / 生活習慣病 / 心血管疾患 / 糖尿病 / 臨床薬理遺伝学 |
研究実績の概要 |
1.熊本県薬剤師会との共同研究による副作用発現の性差に関する検討 熊大薬学部育薬フロンティアセンターと県下の保険薬局の情報ネットワークを活用して、日本薬剤師会Drug Event Monitoring事業(医薬品安全対策と薬局薬剤師の職能向上を目的として、毎年特定の対象医薬品を処方された全患者の副作用症状に関して薬剤師が直接聞き取りをするエビデンスの高い副作用実態調査)の結果を、性差を軸に再解析した。H26年度には、カルシウム拮抗薬で女性の血管拡張性副作用が1.8倍多かったこと、超短時間型睡眠導入剤ゾルピデムでは副作用発現の性差を認めず、高齢者でも安全性が高いことを論文発表した。 2.生活習慣病の発症進展に関わる遺伝的・非遺伝的要因の性差、並びにその病態解析に関する検討 軽症から末期までの生活習慣病患者を比較検討するために、人間ドック受診者、糖尿病患者、心カテーテル実施者を対象とした。H26年度には、女性が糖尿病性網膜症・腎症・冠動脈疾患の独立した危険因子であり、その背景として主婦は健康診断の受診率が低く糖尿病の発見が遅れがちであり、診断前の血糖・脂質高値の後遺症により、治療開始後も血管障害の発症進展を招くことを論文発表した。さらに、血管内皮に存在しアラキドン酸代謝を介して特に女性で強力に血管を拡張する物質を生成する可能性が示唆されながら臨床的に証明されていなかったチトクロームP450 2C19の遺伝的欠損が、女性の糖尿病性網膜症や冠動脈疾患の有意な危険因子であることを初めて論文発表し、心血管疾患の性差に係る病態の一端を明らかにした。また、糖尿病で喫煙する女性では、高齢になるにつれてトリグリセリドの上昇と冠動脈疾患の発症を認める一方、糖尿病の女性患者の高LDLコレステロール血症が腎障害に関わることを示した。 他にも向精神薬の薬物動態・薬力学や生活習慣病の危険因子に関して性差を含めた多くの検討結果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
着眼点が良かったこと、良い共同研究者に恵まれて十分な支援や指導を得られたこと、学部学生から大学院生まで学生達の多大な努力があったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
1.熊本県薬剤師会との共同研究による副作用発現の性差に関する検討 DEM事業で対象となった薬物の副作用の性差をさらに検討して論文発表する。また、これまでの成果をもとに日本薬剤師会に対して副作用の性差に関する全国調査の実施を提案する。さらに、育薬フロンティアセンターのホームページや熊本県薬剤師会との情報ネットワーク(KUMAYAKU Network for Community Pharmacies: KNCP)を活用して、研究成果を国内外に発信する。また、その成果により育薬フロンティアセンターの情報発信力を強化するとともに、日本薬剤師会に働きかけて薬剤師生涯教育プログラムに副作用の性差に関わる項目を取り入れたり、地域行政の健康増進計画に参画して副作用や生活習慣病に関する女性向けの市民公開講座を開催するなどして、本成果をヘルスリテラシー教育として国民に還元する。 2.生活習慣病の発症進展に関わる遺伝的・非遺伝的要因の性差並びに病態解析に関する検討 対象者を増やして前年度の検討を継続する。女性の喫煙・脂質異常について、冠動脈疾患患者に関してより詳細に検討する。糖尿病患者については、H26年度に約10年間の詳細な臨床情報を収集したので、腎機能の変化や網膜症の発症進行等に関して、薬物治療を含めてさらに詳細なコホート研究を行う。また、HbA1cや脂質パラメーターの経年変動も新たな解析手法で定量的評価を試みる。人間ドック受診者についても過去7年間の臨床情報を収集し、生活習慣と遺伝子型が各種臨床指標に及ぼす影響について男女別に縦断的解析を行う。
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