本研究は、母子世帯の経済的貧困の原因と貧困削減を可能とする要因について、家族的資源、雇用労働、およびそれに伴う社会保障制度に焦点をあてて検討することを目的としている。 母子世帯の動態についての分析から、離別、死別、未婚の母子世帯のうち、相対的に低所得である離別、未婚の母子世帯の割合が高まっており、母子世帯の貧困拡大の要因となりうることが示唆された。また、母子世帯全体の3割が三世代世帯を含む非核家族世帯となっており、親等との同居は母子世帯の経済的な貧困リスクを低下させる傾向がみられるが、社会的排除や時間貧困への効果は明確ではなく、同居が貧困を削減するための家族的資源としての有効性を必ずしももたない可能性が示唆された。 次に、親の配偶関係による違いに着目して相対的貧困率を推計した結果、離別母子で最も高く、次いで死別母子と未婚の貧困率が高い傾向にあった。税・社会保障制度による貧困削減効果は、母子世帯において死別の場合により大幅な効果がみられるなか、離別母子では、2006年以降一定の貧困削減効果がみられた。 貧困率の変化の要因分析からは、貧困率を上昇させる主要因が当初所得の変化であり、2000年代半ば以降就労収入での経済的自立がより困難な状況にあることが推測される。ただし、税・社会保障の貧困削減効果については1990年代後半は貧困率を引き下げる効果に乏しく、2000年代後半以降、貧困率の上昇を抑制していた。離別や未婚母子の増加といったひとり親の構成割合の変化は、当初所得の影響よりは小さいものの,貧困率の引き上げに一定程度寄与していた。
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