研究課題/領域番号 |
26360061
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
多田 治 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80318740)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 沖縄 / ハワイ / 観光 / 楽園 / イメージ / 新婚旅行 / 宮崎 / 南国 |
研究実績の概要 |
8月まではハワイ大学研究員として、現地で行える資料・情報収集やフィールドワークに力を注いだ。拠点のオアフ島だけでなく、マウイ島・ハワイ島にも足を運び、島ごとの観光開発やイメージ形成の多様な歴史を把握した。また、本研究と直結する"Paradise Project"の成果として英語で論文を書き、1960-70年代の新婚旅行ブームにおける宮崎・ハワイ・沖縄の関係についてまとめた。その執筆・追加調査・修正稿の作業には7月まで時間を要した。11月にはその内容をもとに、日本社会学会大会で成果報告を行った。8月下旬の帰国後、比較や観光化の裏面を見るため水俣・福島で聞きとり調査を行い、2月にその成果を出版用に文章化した。また、沖縄の観光・社会変容の実態を知るため、9月と1月末に宮古・伊良部島と八重山諸島でフィールドワークを行い、新たに完成した伊良部大橋や石垣新空港の効果や影響などについて、現地の関係者に詳しく話を聞いた。11月下旬からは観光関連の講義を行う場を活用し、観光研究の視覚と手法を新たに深化する作業に取り組み、日本では特に戦前と戦後の断絶と連続性に留意して研究を進めることの重要性を見出した。その関連で、3月には台湾で調査を行い、日本統治時代の台湾観光やその南国イメージ、日本人の間で流行した温泉観光、台湾の多民族性などについて認識を深めた。これをふまえて研究代表者は、日本の観光の長期の歴史をよりトータルに把握する必要性を自覚し、戦前からの国立公園の歴史や、戦前の植民地観光から戦後の北海道観光への流れに関心を向け始めている。北海道という新たな切り口・対象が浮上したことで、北海道と沖縄という南北の両極の関係性のなかで、沖縄を位置づけなおして考える射程を獲得できたことは、大きな成果であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
8月までのハワイ大学研究員の立場と、その後の日本での研究、両方の時期を存分に生かして、研究目的を存分に達成することができた。沖縄単体でなく、沖縄と他地域との関係づけを志向する本研究の目的からして、実際に沖縄そのものの深化と、宮崎・ハワイ・水俣・福島・台湾・北海道などの地域それぞれの調査研究の両方を行い、それらの関係づけを行う中から、日本の観光の歴史を記述するための構想を具体化し、その中に沖縄を新たに位置づけなおす射程が得られた。その成果は当初の予想を上回り、実に得るところが大きかった。 ハワイに研究員として滞在できたのは短期間に限られ、充分ではなかったが、その後の日本での研究に豊富で柔軟な着想・ヒントを得ることができたのである。例えば、ハワイが観光地化されるまでには、アジアからの移民をプランテーション労働に導入するプロセスがあったが、その背景には、もともといたハワイアンの先住民が、環境の変化により激減したことがあった。この状況を日本に応用して考えれば、ハワイは沖縄よりもむしろ、北海道と通じる面が大きい。北海道も明治からの近代化のなかで、開拓~開発の流れをたどり、そのなかで観光も伸びてくる。北海道におけるこうした開発と観光の関係は、復帰後の沖縄にもモデルとして応用されることになる。 このような新しい視座と今後の展望は、当該年度に切り開かれた貴重な成果であり、当初の計画を越えて研究が進展したことを表している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降は、北海道と沖縄を「北と南」の軸として、総合開発と観光の関係に焦点を当てた研究を基調としながら、そこに戦前の植民地観光や、戦後のハワイ・グアムなどの南国海外旅行なども関係づけていく。現地フィールドワークと徹底した資料収集を基礎にして、学会での研究成果発表もタイミングよく効果的に行い、その知見をさらに発展・精錬させていけば、論文にまとめる作業も着実に進めていくことができる。 大量の資料収集・読み込みと、キーパーソンへの聞きとりをバランスよく進めることによって、研究知見の精度を高め、生き生きとしたリアリティを確保することができる。複数の地域にまたがる研究を行うことにより、その分の時間と労力はかかることになるが、本研究課題の最終年度である平成30年度まで、あせらずじっくりと、着実に成果を挙げていく姿勢を貫く。 各地の大学研究者や郷土史家、メディア業界等の方々との連携・協力態勢もととのえていく。調査やデータ整理等には大学院生などの力も借りて、円滑かつ着実に研究を遂行していく。
|
備考 |
毎日新聞 2014年4月17日付 大阪版 夕刊掲載 多田治「ぶんかのミカタ ニッポンの旅50年 上・ハワイ手本に『楽園・沖縄』」 http://d.hatena.ne.jp/tada8+work/20140417/
|