| 研究課題/領域番号 |
26360061
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| 研究機関 | 一橋大学 |
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研究代表者 |
多田 治 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80318740)
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| 研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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| キーワード | 旅 / 移動 / 象徴 / 歴史 / 国家形成 / 観光 / 理論 |
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| 研究実績の概要 |
これまでの沖縄・ハワイ・宮崎・北海道等の観光・イメージの研究をふまえ、平成29年度前半は、こうした観光開発やイメージ形成のプロセスをとらえるための理論的・歴史的なパースペクティブを掘り下げる作業を継続した。エリアスの国家形成論とブルデューの象徴資本論を結びつけて論じる中から有効な知見を引き出し、近現代の社会を近世からの長期のプロセス・連続性で見ていく視座を確立し、観光現象もそうした歴史の中に位置づけた。夏にはこれまで蓄積した理論的知見を本にまとめる作業を行い、10月に編著『社会学理論のプラクティス』を刊行した。また並行して夏には東浩紀氏の福島・チェルノブイリ関連の仕事とマキァーネルの観光論の比較検討を行い、論考を執筆した。
『社会学理論のプラクティス』で扱う歴史の事例は主にヨーロッパだったので、後半はその知見を日本に適用し、近世の安土桃山～江戸時代にいかに国家的な枠組みが形成されたか、また参勤交代や伊勢参りによって日本の広域を移動する大衆規模の旅・観光の文化がこの時期確立し、旅・移動が国家形成に重要な役割を果たしたこと、江戸への首都機能の集中や消費社会の進展、全国レベルの産業・文化のネットワーク形成などを明らかにした。明治期の鉄道事業にも注目し、徒歩による街道の旅から鉄道旅行へ移行した近世～近代の変化と連続性への認識も深めている。
以上の作業と並行して各地で現地調査も進めており、沖縄・本部半島、長野県佐久市、三重県伊勢、長崎市・島原半島、大阪、名古屋等で博物館や資料館、城跡等の見学を行い、歴史観光・戦跡観光・産業観光・コンテンツ観光などの諸実態について認識を深め、２～３か月に１回のペースで発行中の『多田ゼミ同人誌・研究紀要』に連載執筆して知見を報告し、相互に関連づけや比較が可能な知見のストックを蓄積できた。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄・ハワイ・宮崎・北海道等の楽園イメージや観光開発に関する研究は、平成27年度までで当初の計画以上に進展した。平成28年度からは、ゾンバルトや川北稔が重要性を見出した贅沢品・嗜好品＝「象徴財」を軸としたグローバルな経済の歴史に、観光を位置づける作業に取り組んでいる。またウォーラーステインの世界システム論を取り入れ、長期の歴史プロセスを見ていく視座と、個々のアクターや地域・国家をより広範囲のシステムに置き、関係性を重視する立場を手に入れた。近年の観光研究は、特定の地域・場所のエリアスタディに特化したものが多く、このような関係性や長期の歴史に目を向けた研究はまだ充分ではない。こうした理論的・歴史的パースペクティブの導入・整備は、観光研究に一定のオリジナルな貢献をなしうる、意義ある作業となった。
社会学・社会科学は長らく、政変・戦争・外圧等による歴史の断絶を強調する傾向があったが、長期の歴史プロセスをとらえる見方を推し進めることで、時代間の連続性が見えてくる。特に社会学は近代以降の社会変動に注目してきたが、むしろ近世（初期近代）の時代に近代を動かす要素・原理が現れ確立したことで、明治以降の西洋化・近代化がスムーズに進んだ面も大きい。日本では安土桃山時代から江戸時代がそれに当たる。江戸時代後期には民衆の間に旅行の文化もかなり広まり、参勤交代や城下町、伊勢参りのように、観光・都市研究に近世からの連続性の射程をもちえた。平成29年度にはこの江戸期のマス・ツーリズムの形成を具体的に掘り下げ、認識を深められた点が大きい。東海道をはじめ五街道の形成が旅・観光に果たした役割や明治期の鉄道への連続性、近世の城が果たした軍事的機能と象徴的機能の二重性、大河ドラマ等に見られる歴史―メディア―観光の有機的なつながりなど、一連の作業から得られた知見の意義・効用と、今後の発展可能性は大きいと考えている。
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| 今後の研究の推進方策 |
平成29年度には単行本『社会学理論のプラクティス』の刊行によって、それまで行ってきた理論的・歴史的パースペクティブの形成・整備の作業をひと区切りさせることができた。平成30年度はこうした知見を基礎にして、日本の歴史・観光・移動等に焦点を当てた研究を本格化させる。その際、各地のローカルな視点は不可欠となる。沖縄・ハワイ・宮崎などの「南国」に加えて、江戸東京・神奈川・東海道・長野・京都・大阪・名古屋・伊勢・長崎なども射程に置き、近世～近現代の国家形成や社会変容を、関係・プロセスを重視する視座からみていく。エリア横断的・時代横断的な関係性やヨーロッパとの比較の視座、長期の歴史過程における変動や連続性の視座は、これまでの作業から得られた貴重な成果であるため、今後も大いに活用して柔軟に導入してゆく。
グローバルな奢侈・消費の歴史のなかに観光を位置づけなおすとき、観光と非-観光の諸要素との明確な区分・切り離しは困難であり、むしろ両者を関係づけ、粘り強く見ていく視座が、ますます重要となってきている。逆に言えば、こうした社会連関の中で、観光はいまや欠かせない一要素となってもいる（全体的・社会的事実としての観光）。観光を切り口にして社会をとらえる方向を、今後もいっそう深めていく。
平成28年2月から『多田ゼミ同人誌・研究紀要』を創刊し、自前の媒体として位置づけ、およそ２～３か月ごとに研究成果を文章化して、豊富な写真とともに寄稿し共有する生産態勢をととのえている。発表した文章は、ゼミの学生や同人誌参加者に読んでもらい、感想・フィードバックを受けとって参考にしてゆくしくみを作り上げている。書きためた原稿を加筆修正のうえ、最終的には単行本に仕上げていく方向で作業を進めてゆく。必要や機会に応じて、随時学会やシンポジウム等で成果発表を行うことも検討する。
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