最終年度の2018年度は(1)これまで進めた各地での現地調査を継続し、神奈川・愛媛・沖縄・北海道・長崎・静岡・鹿児島などで城跡・街道・博物館等でのフィールドワークや資料収集を行い、歴史観光やコンテンツ観光の諸実態を把握し、『多田ゼミ同人誌・研究紀要』でリポートを連載し、関連づけ可能な知見のストックを蓄積できた。(2)並行して近世江戸期の街道、近代明治の松山を事例に論考を書き、歴史の厚みの中に旅・観光を位置づけ知見を深めた。(3)ドラッカーの文献を読み込み、観光にも応用できる知識社会論の視座を独自に練り上げ、12月以降5度にわたり各地の研究会で報告した。(4)本研究で進めてきた楽園幻想と観光開発について、ハワイ・沖縄・北海道の歴史比較をまとめる作業を行い、12月のシンポジウムで報告、2月に論文を完成させ、本研究の集大成とした。 これまでは沖縄観光を主な研究対象としていたが、沖縄単体より国内外の各地との関係性に力点を置き、ハワイや宮崎との連続性から観光の歴史を把握した。英日の両言語で学会報告と論文作成を行い、貴重な反響を得た。先住民や開発の歴史では、沖縄より北海道がハワイと重なる点から着想を得た。より長期の観光の歴史を把握するため、北海道の観光史を検証した。開発の枠組みから観光が成長した北海道のプロセスを、復帰後の沖縄は継承した。エリア横断的かつ長期の歴史から、観光を切り口に社会をとらえる視点と手法を練り上げられた。こうした観光史をより一般の社会的文脈に位置づけ、象徴・知識・奢侈などの理論的・歴史的な視座を掘り下げる作業にも取り組み、その成果を単行本にまとめ刊行した。そこで扱う歴史の事例は主にヨーロッパだったので、その知見を日本にも適用した。江戸時代の参勤交代や伊勢参り、明治の鉄道にも注目し、旅や移動が近世~近代日本の国家形成に重要な役割を果たした歴史を理解する地平にまで達した。
|