研究課題/領域番号 |
26360069
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
大島 順子 琉球大学, 観光産業科学部, 准教授 (40423735)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自然環境資源の保全と活用 / 環境教育 / 沖縄島北部やんばる / 成人の社会的学習 / 世界自然遺産 / アクションリサーチ / ワイルドライフ・ツーリズム / 人材育成 |
研究実績の概要 |
本研究は、世界自然遺産暫定一覧表に記載された「奄美・琉球」の構成エリアの一つである沖縄島北部(やんばる)を対象に、観光資源となる自然環境の保全や適正利用のための仕組みを検討し、国内外からの観光客のタイプやニーズの変化に応える地域側の受入れ体制の構築に向けた政策提言を導くことを目的としている。 第二年度の大きな成果の一つは、研究代表者と協力者、そして対象となるやんばるの森林・林業に関わる当事者らで学び合う勉強会の開催が恒常的なものとして意識化されるようになったことである。地域住民が世界自然遺産登録を目指す中央政府および地域行政の動きを把握し、それにまつわる諸問題の理解、そしてどのような当事者意識を持って関わり、解決していくのか、これらの学びの場を創り関わっていくことの必要性および重要性が認識されてきたことを意味する。 行動のアウトプットとして、やんばるの森の管理体系および林業に従事している人々に対する理解を深め、今後の活用の在り方を探ることを目的とした一般向け公開講座「やんばる山学校」及びやんばるの自然資源として保全と適正利用の正しい理解が広く県民に求められる国指定天然記念物ヤンバルクイナの現状と適正な観察方法を学ぶ「ヤンバルクイナを観て考える」(共に琉球大学主催)を関係者の協同のもと開講し、継続的な取組みとする流れを作ることができた。研究目的に挙げる世界自然遺産地域の資源管理という社会的な役割を担う基盤的存在としてのガイドやインタープリターの地域人材育成に着実に繋がっている。受講者の評価は高く、現場で地域住民と一緒に学び合うことの建設的な相互作用が実感できることが明確になり、PDCAサイクルを活用しながら、当事者らが適正な行動を起こしていく研究実践スタイル(アクション・リサーチ)が定着してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第二年度は国内各地への現地調査やインタビュー調査を最小限にし、対象地域の現状把握から導き出された喫緊の課題に地域事情を考慮して慎重に取り組み、やんばるの森林業に関わる当事者らとの勉強会を定期的に開催することができた。地域の多くの住民は世界自然遺産登録に向けて様々な不安や危機感を持ち合わせている状況下にあり、勉強会は、その現状を分析しながら世界遺産についての正しい理解の習得と市民参加による合意形成を盛り込んだ登録へのプロセスが確保できるような学びの場であるとも言え、それが意識化され定着してきた。 勉強会の定期的活動のアウトプットとしての可視化が、やんばるの森の管理体系および林業に従事している人々に対する理解を深め、適正な利用の在り方を市民レベルで探究することを目的とした一般向け公開講座「やんばる山学校」(琉球大学主催)の企画運営であった。講座は勉強会参加者の協同のもと、企画から準備・指導・運営を行い、その経験は地域の人材育成に繋がったと思われる。公開講座は、世界自然遺産の候補地としての学術的価値を要するやんばるの森を前提とした自然環境は同時に人々の生活の場でもあり、この視点を森林業に携わる人々と都市部に住む県内外の人々との間で交流を通した緩やかな情報共有や意見交換等の場づくりとしての機能を持ち合わせることを可能にした。 本研究は研究方法としてPDCAサイクルを活用しているが、その長所を意識した実践的研究スタイルが効果を引き出していると言える。また、当該研究が地方の国立大学ならではの地域貢献としての役割が発揮される機会を創出していることも明確化された。 世界自然遺産地域の資源管理(主に森林)を担う地域人材の育成については、地元の森林組合との連携により、今後の発展が継続的に望める状況下にある。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度の研究成果をふまえ、対象となる沖縄島北部(やんばる)の森林・林業に関わる当事者らで引き続き定期的な勉強会を開催し、参加者一人ひとりが持つ世界自然遺産登録に関連する多方面からの情報の共有をもとに地域の動きの現状把握、そこから導き出される課題解決のための取組みの検討を経て、行動を起こすという一連の研究実践スタイル(アクション・リサーチ)で継続的な研究推進を図る。 具体的には、1)第二年度に勉強会参加者で協同して開講した公開講座を最終年度も企画し、準備から指導・運営、評価に実践的に関わることで、世界自然遺産登録候補地の価値を維持していく意識を高揚する学びのコミュニティづくりと、それに必要な学習要素を検証していく。 2)やんばるの世界自然遺産クライテリアの正しい理解を促し、持続的な観光資源に繋がるバードウォッチングツアーのモデル創出と人材育成に向けた活動に着手する。3)研究計画の予定通り国内外の関連学会で研究成果を発表し、国内外からの観光客のタイプやニーズの変化に応える地域側の受入れ体制の構築に向けた政策提言内容をまとめる。研究成果の一部は、2016年8月5~7日開催の日本環境教育学会第27回大会(東京)(於:学習院大学)において発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は、対象地域の沖縄島北部(やんばる)の現状把握から導き出された喫緊の課題に取り組むべく、勉強会の定期的開催及び講座の企画・準備・運営の体制づくりに注力したことから、予定していた国内の現地調査やインタビュー調査の機会が大幅に減る結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は、当初予定していた現地調査の対象地を精査して訪問先を決め、国内外の現地調査(活動への参加を含む)やインタビュー調査に関わる経費(交通費、宿泊費、謝金等)、必要に応じて作業補助アルバイトを依頼する予定であり、それらの経費を計上している。勉強会に関しては、進行具合によって講師を招聘して拡大研修会を開催する際の経費(旅費、謝金、会場費等)、研修視察(対象地での情報送受信や意見交換等)を企画する可能性があるが、その際に関わる当事者らにも同行して頂くことが想定されるため、その経費(交通費、宿泊費)が計上されている。また、研究代表者及び研究協力者の出張及び研究成果の検証・発表のため、関連学会への出席に関わる最低限の経費(交通費、宿泊費等)の使用が計上されている。
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