最終年度は、受入れ自治体における世界自然遺産候補地として適正な資源の保全と管理に関する理解に基づいた政策能力を身につける人材育成の実践とその検証に絞られた。研究代表者らとの協働的な打合せ(勉強会)等の実施により、自治体の候補地及び周辺エリアの保全と利用に関わる法規制やルールづくりに関する知識と共有の不足が地域の課題として明確になり、自治体職員らが学習の必要性と重要性を認識できるようになった。しかしながら、日本政府のユネスコ本部への世界自然遺産登録への正式推薦書提出以降、自治体における意識の共有に陰りが生じ、担当部署のみに依存する様子が顕著に現れてきた。
具体的な実践のアウトプットとして、地域の観光協会職員を対象とした世界自然遺産候補地における山岳遭難事故に関する受入れ体制を構築するための研修を開催した。国立公園指定後、入山が増加したことで遭難事故が多発し、山林利用者の受入れの対応策が未構築であることの危機感に繋がり、国内外からの観光客のタイプやニーズの変化に応える受入れ体制の具体的なコンテンツの洗い出しが不十分であることも明らかになった。
また、国立公園エリアや世界自然遺産登録地周辺で施業を行う林業者を対象とした半年間に渡る研修の企画・運営・指導にあたった。当事者らには、様々なレベルで市民が森林に期待する価値観を理解しつつ、当該地域における森林施業の仕組みや自分たちが置かれている立場等を客観的にわかりやすく伝えるコミュニケーション能力が必要とされていること、このエリアで作業する強みを素材とし、見える化していく意識改革が有効であることが明確になった。世界自然遺産地域の資源管理という社会的な役割を担う基盤的存在として若手林業者を対象とした地域人材育成モデルの検討に不可欠な実践の検証に繋げ、本研究全体から導く政策の提言に盛り込んでいく。
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