ワーク・イン・レジデンスについて徳島県、大分県などにおける実証研究を通じて明らかになったこと、それは、経済資本と対をなし、文化資本を生み出す「ヨコ型」のガバナンスが構想されなければならないという点にある。本研究でいう「ヨコ型」構造とは、文化資本を持つ職人や芸術家、知識人らが古民家に実際に居住しつつ、活動する姿がそれである。こうした職人や芸術家、知識人らが古民家で産業として事業を興すことが重要であるが、そのために起業家や企業の社員のノウハウや資本が不可欠となる。 そして、職人や芸術家、建築家、知識人らが古民家で「理解しあい相互協力しながら事業化を進めていくには、何よりも「主従関係でない」ヨコ型のつながりが重要である。そうしたヨコ型の結合をコーディネートし、利害を調整しつつ、協力関係を保つ役割を担う人材やNPOの存在も重要であり、また行政の役割も無視することはできない。 これまで経済資本が支配してきたガバナンスにおいては、その中心はタテ社会の構造であった。しかしながら、ワーク・イン・レジデンスが有機的に機能する現実から垣間見たのは、それとは真逆の構造であった。すなわち、それは職人、芸術家、クリエーターらが自らの技や手仕事を通じて自己の体験、技、ノウハウなどを活用しながら、他社とのヨコの連携を通じて地域再生に貢献していく姿である。この場合、事業を興した起業家や社員は、いわば企業市民として地域に溶け込み、ヨコ型のネットワークを諮りながら町屋・古民家の再生に取り組んでいく。 この発想は、従来の組織運営にみられるような「タテ型」ではなく、「文化的環境を生み出すヨコ型のガバナンス」と呼ぶことができよう。結論すれば、ワーク・イン・レジデンスの成否は、地域において文化的環境を生み出すガバナンスを持続的に構築しうるかにかかっているといわなければならない。
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