研究課題/領域番号 |
26360077
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
古屋 秀樹 東洋大学, 国際地域学部, 教授 (80252013)
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研究分担者 |
岡本 直久 筑波大学, システム情報工学研究科(系), 准教授 (70242295)
野瀬 元子 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 准教授 (60611845)
崔 瑛 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 講師 (60635770)
栗原 剛 一般財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所, その他部局等, 研究員 (80610344)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 観光 / DMO / 観光振興 / マーケティング |
研究実績の概要 |
本研究の最終的な目標である「地域の観光振興」実現のため,本年度は特に「観光者の行動・志向・選好によるセグメンテーションの把握」を行った. この中で,論文1(旅行者の志向と宿泊観光旅行との関連性分析)では,日本観光振興協会が実施した「国民の観光に関する動向調査」の50年間のデータを用いて,数量化Ⅰ類を適用して宿泊観光旅行回数モデルを構築したところ,年齢階層(年代)および対象のコーホート(世代)に加え,1人あたり実質GDPならびに経済成長率(時代要因)が強く影響していることが明らかになった.また,論文2(潜在クラスモデルを用いた宿泊観光旅行回数の基礎的分析)では,旅行回数関数が異なる3セグメントを導出することができ,年収をはじめとして個人属性による旅行回数への影響が高頻度クラスで大きいこと,消費行動,旅行行動への志向が旅行回数に与える影響は年収よりも小さいこと,高頻度クラスになるに従い,高齢者の構成比率が増加するとともに,旅行非実施クラスがいずれの階層にも40%超程度を占めていることが明らかになった.これらの研究は,旅行マーケットは意思決定構造の異なる複数のセグメントから構成されることを示唆しており,より詳細な需給のマッチングのために有益な基礎情報として位置づけできる. また,学会発表(静岡の茶資源を活かしたグリーンティーツーリズム推進に関する基礎的研究)では,東京都居住者の静岡市に対する観光意識に関する調査を実施し,静岡市に対するイメージとして「茶」を連想するか否かによる違い(人口統計学的要因,観光意欲,観光体験における差)を明らかにすることで,需要側における静岡の茶に対するイメージと観光行動の関係についての示唆を得ることができた.特に,地域ブランドとなる観光資源の認知構造について着眼し,両者の関連を明らかできたと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主な研究目的であった「①観光者の行動・志向・選好によるセグメンテーションの把握」では,年間の旅行回数への影響要因や異なった需要関数を明らかに出来た.これまでのマーケット需要構造が単一との研究事例が多いものを定量的にセグメントを構築しながら,区分分けできた部分が大きな成果として考えられる.しかしながら,分析項目が年間の旅行回数であったために,地域振興のための需給マッチングの検討では,旅行の目的,同行者,利用交通手段などから導くことができる旅行へのニーズ,志向をより明確にすることが必要と考えられる.それに対応するためには分析項目が複数になるとともに,項目間の関連性をどのように把握するか,という問題点が新たに発生すると考えられる.そのためには,数量化理論など既存の手法では対応が困難であるために,第2論文で用いる潜在クラスモデルを適用することによって対応することができると考えられる. また,本研究の最終的な目標である「地域の観光振興」実現のためには上記①に加えて,「②観光地域間競合の定量的把握及び地域の観光資源の多面的な把握方法の深度化」,「③上記①,②から導かれる需給マッチングを明らかにすること」が必要不可欠となる.②については,静岡をケーススタディとした研究が進展した.観光ではイベントが誘客の重要な手段になりうるが,静岡世界お茶祭りは,県内最大規模の茶を活かしたイベント資源としての意味合いがあり,茶に対する興味と意識が高い来訪者が多く,茶をテーマとするグリーンティーツーリズムの需要層となりうる.イベント内容に対する満足度と再訪意向,さらに茶をテーマとする観光商品に対する要望とツアー参加意向を,自由記述データにより把握し,消費者属性による違いを明らかにすることができた.平成27年度は,これらを複数地域に拡張をする必要があると考える.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に示したように,「①観光者の行動・志向・選好によるセグメンテーションの把握」では,旅行の目的,同行者,利用交通手段などから導くことができる旅行へのニーズ,志向をより明確にすることが必要と考えられる.そのために複数の旅行要因間の関連性を明らかにでき,要因の組み合わせを抽出できる潜在クラスモデルを適用するとともに,経年的な旅行行動の変化を明らかにするために,「国民の観光に関する動向調査」を複数年に渡ってデータ提供をいただきながら分析を進める予定である. また,「②観光地域間競合の定量的把握及び地域の観光資源の多面的な把握方法の深度化」については,地域間の観光資源,観光行動の差異を把握するために日本をいくつかの地方に区分し,各地方における観光行動の差異や観光資源の特性把握を観光庁が整備するデータ等を活用しながら明らかにする予定である.この際に,観光交通の流動は,季節,時間変動や空間的偏りが大きいため,これらの分解能を有するデータの確保が必要不可欠といえる.携帯電話の位置情報などを活用しながら,実態把握を行うとともに,その流動の規則性を把握する必要性が高い.また,旅行流動は性年齢階層や国籍などによる差異が考えられる.これは,旅行に対する意向,ニーズの違いの他に,勤務形態や就業の有無,家族形態といった様々な個人属性の影響が考えられるためである.これらについては,①の研究成果を反映させながら,②をより詳細も把握する. これらを進めながら最終的な目標である「③上記①,②から導かれる需給マッチングを明らかにすること」に向けた検討を予定している.この過程では,先進的な事例である欧州におけるDMO機関の取り組みとともに,日本でも先進的な取り組み事例である和歌山県田辺市や長崎県小値賀町などが参考になると考えられるため,それらの知見を収集しながら,分析内容を深める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の購入価格が予定より安価であるとともに,出張旅費が安価に済んだため.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は,「①観光者の行動・志向・選好によるセグメンテーションの把握」のために,旅行の目的,同行者,利用交通手段などから導くことができる旅行へのニーズ,志向をより明確にすることが必要と考えている. そのために複数の旅行要因間の関連性を明らかにでき,要因の組み合わせを抽出できる潜在クラスモデルを適用するとともに,経年的な旅行行動の変化を明らかにするために,「国民の観光に関する動向調査」を複数年に渡ってデータ提供をいただきながら分析を進める予定である.これらの過程において,昨年度の残額である約1万円は,作業にともなう用紙,プリンターインクなどの消耗品の購入にあて,効果的な研究の遂行に有効に利用する予定である.
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