最終年度は、本研究が意図する国際比較研究をより拡大・深化するため、北米の代表的グローバル経済都市の一つであるトロント市の中心業務地区に焦点をあて、そこでの観光空間の形成を探るためフィールドワークを実施した。その結果、同市の中心部においてグローバル・ビジネス空間とグローバル観光空間が互いに隣接するかたちで存在し、企業や人々のグローバルな活動を支え、促進するための大規模でユニークな都市空間が形成されていることを確認した。これまでの調査に加えこのトロントでのフィールドワークにより、グローバル都市の中心業務地区における観光空間の形成は世界的な傾向として多様なかたちをとりながら進行しており、都市間競争および持続可能性の観点から政策的、計画的な取り組みが必要となっていることを確認した。 本研究の中心的な学術的意図は、グローバル都市中心部の観光地化という近年の都市現象を対象に都市計画学と観光学の学際的研究を推進することであるが、その実現手法として昨年度は観光系と都市計画系の学会において本研究についての報告を行った。その結果両学会において、中心業務地区の観光空間形成が都市計画学と観光学を融合する新しい研究対象として成立する可能性を確認するに至った。さらに両学会での議論を通して「文化的消費」あるいは「文化経済」の概念が、東京だけでなく世界のグローバル都市の中心業務地区における観光空間形成について理解するための理論的枠組みとして用いることが有効であるとの示唆を得た。この概念的アプローチの有効性は海外文献の調査からも読み取れるものであり、今後のより発展的な研究のための座標軸となることを確認した。以上のように、本研究最終年度ではフィールドでの実証的研究と文献調査および学会等での理論的研究を相互に連携させて進め、中心業務地区における観光空間の形成を新たな学際的研究の対象として位置づけることができた。
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