今年度は、戦後の長崎の復興計画(都市計画)について文献的な考察を継続し、戦後長崎の都市の変貌については、写真家小川虎彦さんの記録写真を用いて考察を行った。そして、都市の記憶として重要である被爆建造物の残存と滅失の状況、及び学校建築の戦前の資料について調査を加えた。原爆投下の背景に関連して、原爆の搭載地点などについてのフィールド考察を行った。 今年は研究成果を全体的にまとめる年度となり、全体的な作業は続いているところである。これまでに行った研究発表としては、長崎総合科学大学平和文化研究所の公開講演会において戦前の長崎の都市化と浦上の変容について、長崎総合科学大学の学園祭において小川虎彦写真展企画について、一部分の成果を市民に対して発表した。戦後の復興計画の評価の一環として、被爆建造物について都市レベルの調査を行い、ペーパー発表は、「長崎における「被爆建造物等」の保存の課題」などのテーマを取り上げた。 本研究の主な目標は戦後の長崎の都市復興の状況をできるだけビジュアル的に解明し、長崎の原爆復興の歩みを再評価することである。そこで、都市空間レベルの被爆関連遺産を再評価し、平和学習に生かすものである。写真資料についての調査を通してわかったことは、被爆地域の戦後の様子とその変容についての資料は非常に乏しい。今後、長期的な発掘の必要性が再認識させられた。研究では新たに発見されたものと、課題として残されたものは明確にまとめられていく予定である。 本研究を通して、長崎の戦後史の研究においてやや不足であった「原爆復興」のコンセプトが再提起され、そして都市計画のレベルにおける被爆の記憶と平和のメッセージの発信の必要性が検証される。本研究の成果は、理論的な付与とともに、長崎の都市計画における被爆建造物の保存と再計画に繋がり、今後の新しいステップの科学研究においてもさらに進められるものとなる。
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