研究課題/領域番号 |
26370004
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
千葉 清史 山形大学, 人文学部, 准教授 (60646090)
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研究分担者 |
松本 大理 山形大学, 地域教育文化学部, 准教授 (20634231)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超越論的論証 / 哲学方法論 / 認識論 / カント / ストローソン / アーペル / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本年度は、超越論的論証をめぐる英語圏・ドイツ語圏の研究を広く収集し、さらに、今後の研究の方向付けを決定する基盤の設定を行なった。 千葉は特に英語圏の研究のフォローを担当した。本年度の研究の成果は二つに大別される。(1)「超越論的論証」と呼ばれてきたもののうちには、従来区別されてこなかった二種類のものがあり、それらが混同されることによって、議論が混乱させられてきた、ということを明らかにした。(2) そのうちの一つである「ストローソン型」の内実を画定した。「ストローソン型」は、懐疑論の自己論駁性を示すことによって懐疑論を論駁する、ということのうちにその特質を有する。これは、懐疑論からの問題提起を正面から検討することなしに懐疑論を論駁できる、という論証戦略上の優位性を持つが、これが同時に、哲学的問題の解決としては不十分なものにならざるを得ない、という欠点につながる。さらに、『純粋理性批判』「超越論的方法論」におけるカントの証明論の検討を通じて、「ストローソン型」は、カントの証明論の見地からすれば不十分なものとみなされざるを得ない、ということを示した。 松本は特にドイツ語圏の研究のフォローを担当しつつ、英語圏・ドイツ語圏の両研究伝統の共通点と相違点を切り出す作業を行なった。特に、K.O.アーペルの「超越論的語用論」における「超越論的」という性格づけに焦点を合わせ、これと英語圏における「超越論的論証」研究との比較を行なった。 今年度は、9月19日、3月5日、3月13日の計三回の研究会を山形大学人文学部にて開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
千葉・松本の両者の研究とも、現在のところ、予定通りに進行している。 千葉に関しては、「ストローソン型」の超越論的論証の画定をおおむね終了させたが、「カント型」と呼ばれるべきタイプの論証の本質要件を画定するにはいまだ至っていない。しかしながら、本年度の研究を通じて、この画定のために検討されるべき各種の論点は明瞭となったので、来年度には本格的にこの問題に取り組むことができる。 松本に関しては、特にK. O. アーペルの「超越論的語用論」における「超越論性」の内実の解明に関して進展があった。特にアーペル型の超越論的語用論はもともとカント哲学の変換を目指しているため、どの範囲までがカントの超越論的な議論と問題を共有しているかが曖昧であったが、26年度中の研究会の積み重ねによって、アーペルの解釈とカント自身の見解の相違および共通点の確定が達成できた。また、これと英語圏における「超越論的論証」研究の比較は、今後も継続的に取り組まなければならない課題であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
千葉:英語圏における「超越論的論証」研究のフォローを続けつつ、特に、「カント型」の超越論的論証の内実を画定することを試みる。このために、カント『純粋理性批判』の「超越論的演繹」を、特にその論証戦略の特質という観点から検討する。この検討を通じて、「超越論的演繹」の論証上の特性を、《あることの正当性を示すために、その考察そのものをも可能ならしめる制約へと遡源する自己関係的な性格》として析出することをめざす。その際、特に、J. Hintikka, R.Bubnerらの超越論的論証研究が参考になる。 松本:「遂行論的矛盾の原理」についての考察をさらに深める。その際、アーペルの後継者(D. Boehler, M. Kettner, W. Kuhlmannら)による「超越論的語用論」の展開に注目しつつ、「遂行論的矛盾の原理」についての最新の共通理解を確定する。この点に関しては、特にW.Kuhlmannによる、言語の語用論的次元から命題的次元への自己変容をめぐる考察が重要となる。また、アーペルらの語用論的分析は、実践哲学の基礎づけも視野に入れて展開されているため、カントの実践哲学との関係の分析も、27年度中に進める予定である。 平成27年度は、千葉が、9月に行なわれる国際カント学会(オーストリア,ウィーン大学)で研究発表を行なうことが決定している。さらに、「超越論的論証」の問題圏を扱っている日本人研究者を招待した研究会を山形大学人文学部にて実施する予定である。
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