研究課題/領域番号 |
26370006
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
五十嵐 沙千子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10365992)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 哲学カフェ / 対話型授業 / アクティブ・ラーニング / コミュニケーション / ハーバーマス / 学びの共同体 |
研究実績の概要 |
1.「哲学カフェ」の基礎理論の構築に関して、ハーバーマスのコミュニケーション理論を「哲学カフェ」という観点で再構築し、「哲学カフェ」形式のコミュニケーション空間を作り出すために有効な概念を洗い出した。本年度は「司会者の不在」「流動性」「匿名性」「周縁」「話者の不在」などの方法論をハーバーマスの理論全体から拾い上げ、特に「発話者の原則的交換可能性」というハーバーマスの理論の中心的テーマに的を絞って「哲学カフェ」というコミュニケーション空間を決定する要因を明らかにした。 2.さらに、「哲学カフェ」を実際に実践しながらその中でカフェの有効な方法論や空間論について検証した。分析の枠組みとしては、1.で取り上げた「発話者の原則的交換可能性」を、特に「司会者」「空間配置」「テーマ及びコミュニケーション役割の流動性がいかに設定されているか/いないか」という具体的枠組みに焦点化して分析した。 3.「哲学カフェ」形式の授業構築について理論・実践の両面からアプローチした。特に今年度は「哲学カフェ」形式による研究授業を進め、筑波大学附属駒場高校、長野県立小海高等学校、東京都雪谷高校、SSH指定の神奈川県追浜高校で研究授業を実施し、さらに追浜高校では教職員を対象に哲学カフェ形式の授業実践についての研究会を開いたほか、アクティブラーニングが国内で最も進んでいる岩手県立第三高校、京都市立堀川高校においても実践研究を行い、従来型の「対話型教育」との比較検証をした。特に本年度においては、ハーバーマスのコミュニケーション論が構成する対話空間と似た空間を提示している佐藤学氏の「学びの共同体」に注目し、この「学びの共同体」とハーバーマスのコミュニケーション論との比較軸を仮説的にいくつか設定し、特にその二つの空間を「コミュニケーション空間」の違いとして「発話者の原則的交換可能性」に着目して分析・比較対照した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載した1.の「哲学カフェに関する基礎理論研究」、2.の実際の「哲学カフェ」における実践研究に関してはおおむね当初の予定通りに進んでいる。 しかし、3.の国内の様々な高校での研究授業実践は当初の予定を超えて新たな高校にも広げることができた。また、研究授業を行った高校での教職員を対象とした「哲学カフェ形式の授業実践」研究会、とりわけ国内の3大アクティブ・ラーニング先進校である岩手県立第三高校・京都市立堀川高校との連携は当初の予定を超えて進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1.27年度はまず、前年度に収集したハーバーマス関連、コミュニケーション論関連、教育学関連のデータ、及び初年度の「哲学カフェ」「<哲学カフェ>形式の授業」の実践・視察に基づく実践記録から得た問題群のデータの分析・整理を行いながら、それにもとづいて「哲学カフェ」に関する基礎理論及び方法論についての仮説を提示する。同時に一般市民を対象とする「哲学カフェ」開催ならびに各地のさまざまな「哲学カフェ」の視察および交流とデータ収集を続け、仮説の有効性を検証する(これらの実践・実践記録・分析・仮説の試行・検証に関しては、引き続き、筑波大学人文社会科学研究科大学院生の協力を得る)。 2.これを前提に、「哲学カフェ形式の授業」の原則及び授業の具体的形式を、「教室におけるコミュニケーション空間の再構成」として仮説的に提示し、この授業理論に基づいて、茨城県・長野県・神奈川県・都内・北海道月寒高校および筑波大学等での「<哲学カフェ>形式の授業」の実践及び実践分析を進める。(これらの実践・実践記録・分析・仮説の試行・検証は筑波大学教育学研究科の大学院生の協力を得る。) 3.加えて27年度は、日本倫理学会・日本教育学会等の学会発表を行うほか、各地の「哲学カフェ」主催者とのワークショップ、および中等・高等教育における他の形の対話型授業実践者とのワークショップを開く。特に対話型授業実践者とのワークショップに関しては、その際、「哲学カフェ」と「対話型授業」の比較を中心に中等・高等教育の授業におけるコミュニケーション空間の実現に際してのさまざまな問題点の共有をはかる。また本年度はハーバーマスが影響を与えたドイツの中等・高等教育におけるコミュニケーション的空間の構成を実際に視察し、あわせて研究発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は哲学カフェの実地研究のためにフランスに行く予定であったが、「研究計画の概要」に記載した通り、国内での複数の高校での研究授業・研究会・実地研究が進んだため、フランスに行かずに本年度は国内での授業研究を中心に進めたため。
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次年度使用額の使用計画 |
フランスの哲学カフェには来年度行く予定であるが、加えて、ドイツでの中等学校での対話教育・北欧での対話を通したアクティブラーニングの授業研究にも行きたいと考えている。これらの出張旅費等必要経費に充てる予定である。
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