最終年度の本年度は、前年度の成果をもとにウィトゲンシュタインが論じているアスペクト知覚とはどのような知覚であるのかを改めて定式化するとともに、アスペクト知覚についての議論が彼の思想全体を貫くどのような課題と結びついているのかを考察した。 その結果として、アスペクト知覚がある対象についての否定可能性の理解を背景とした知覚である(ウサギではなくアヒルとして見る)ことを明らかにするとともに、どのような否定可能性との対比のもとで捉えるのかによって、その対象について語る言語ゲームが異なってくるという点を、記述の体系に応じた言語ゲームの多元性という中期以降のウィトゲンシュタインの思想のもとで捉え直した。そのうえで、そのような各言語ゲームの出発点となる対象が「そうでしかありえない」仕方で与えられるという原初性を有していることを明らかにし、ウィトゲンシュタインが提示したアスペクトの恒常的な見え(~を見る)とアスペクト知覚(~として見る)の対比を、与えられるものの原初性と多層性という観点から捉え直した。 そして以上の対比が、最晩期の『確実性について』で扱っている懐疑論においても適用できることを明らかにし、懐疑論が新たな世界の見方を提案することによってわれわれにある種のアスペクト転換を促す議論であると論じた。 以上の考察を通じて、ウィトゲンシュタインの中期から最晩期の思想の連続性を解明するとともに、彼の知覚の哲学と知識の哲学との連続性を明らかにした。
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