本研究は、同時代におけるさまざまなカント哲学の受容と批判を収集・整理し、それらに対する応答をカントの著作や遺稿などに跡づけることによって、同時代の思想的なコンテクストのなかで、『純粋理性批判』から『オプス・ポストゥムム』にいたるまでのカントの超越論哲学とその発展を再構成して解釈する試みである。 最終年度となる平成29年度には「『オプス・ポストゥムム』とドイツ観念論」を中心的な課題として研究を進めた。1790年代にはラインホルト、フィヒテ、シェリングなど、新時代のドイツ観念論の哲学者たちが活躍する一方、老カントは新時代への胎動には背を向けていたように見える。しかし晩年の遺稿『オプス・ポストゥムム』においてカントは、超越論的観念論の代弁者として「シェリング」を指名し、さらには「スピノザの超越論的観念論」とさえ語っているのである。 本研究では、『オプス・ポストゥムム』を当時のドイツ観念論者たちとのカントの執拗な対話の記録として読み解き、「超越論哲学の最高点」を求める最晩年のカントの哲学的努力を跡づけることに尽力した。スピノザやドイツ観念論とは異なるカントの超越論哲学の独自性と今日的な意義をいくらかでも明らかにしえたかと思う。その成果を発表することが今後の課題となる。研究論文のほか、当時の文献の邦訳、辞典項目の執筆等の成果を予定している。 また、アリソン著『カントの自由論』の邦訳を出版したが、同書にはカントの自由論をラインホルトやシラーなどのコンテクストで位置づける議論が含まれていた点が着目される。
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