本研究の主要な成果の一つとして昨年度は、スピノザ初期哲学を成す二作品、『知性改善論/神、人間とそのさいわいについての短論文』(2018年2月、みすず書房―日本語訳と詳細な注解および解題から成る)を出版した。その完成に向けて、「知性改善論」と「短論文」それぞれの認識の問題を検討していく過程で、「短論文」のもっとも枢要な(また誤解もされてきた)問題の一つが、認識の受動性という、この作品だけで強調された性格づけにあること、そしてその要諦は、「観念のうちで対象を表している観念の有りかた」(essentia objectiva)が含む肯定・否定にあるということに着目するに到った。 この着眼を基にスピノザの認識論、ひいては哲学そのものの意義を見きわめるという大きな展望を得た。それに取り組む手始めとして、「短論文」の認識論を主題とする論文の準備と構想を進めた。その一方で、これまで行ってきた「エチカ」に関する研究を基にフランス語による論文を執筆し、それをフランスで発表するためにフランスの中心的なスピノザ学者からレビューを受けた。
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