研究課題/領域番号 |
26370012
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三谷 尚澄 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (60549377)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セラーズ / プロセスの形而上学 |
研究実績の概要 |
ウィルフリッド・セラーズの哲学について、次の諸点を明らかにした。 1)セラーズのよく知られた概念である「世界における人間のイメージ」について、よく注目される「科学的イメージ」と「明白なイメージ」の関係を超えて、通常は検討されることのない「原初的イメージ」に出発点を取る研究を行った。より具体的には、以下の諸点を明らかにした。A)「パーソン」をめぐるセラーズの説明を仔細に検討すると、彼の「明白なイメージ」と「原初的イメージ」の解釈をめぐって、ある明白な矛盾が見出される。B)その矛盾は、意外なことに、彼とは思想的伝統を完全に異にする道元および西田幾多郎の哲学に注目することで、解決のための手がかりを得ることができる。C)「汎自己主義」とも呼ぶことのできる道元の難解な世界理解について、これまた驚くべきことに、後期セラーズの哲学に属する「絶対プロセスの形而上学」および「主体なしの生起」と呼ばれる構想に注目することによって、その明確な解釈を与えることが可能である。D)つまり、道元と西田を媒介とすることで、中期セラーズのテキストが示す重大な矛盾を、後期セラーズのテキストに依拠する仕方で解決することが可能である。 2)上記の成果を発展的に継承する方向で、以下の研究を行った。 世界の有りようを、「固定された実体と変化する属性」のカテゴリーではなく、「恒常的に流動するプロセス」という観点から分析・記述してみせる後期セラーズの形而上学(「絶対プロセスの形而上学」)に焦点をあわせ、13世紀日本の仏教思想家である道元の哲学と比較・対照する仕方でその哲学的意義を明らかにすることを試みた。より具体的には、道元における「仏性」、「如」、「現成」といったキーワードを媒介として採用しつつ、現代におけるセラーズ派哲学のポテンシャルを、「プロセスの形而上学」という観点から検討する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「何が実在するのか」をめぐるセラーズの中核的思考を、後期セラーズにおける「プロセスの形而上学」との密接なつながりにおいて描きだすことができたが、これは、注目されることの不当にすくなかった観点からセラーズ哲学の骨格を描きだす点で十分に意義ある業績であると考えている。 また、その全体像を明確に見通すことのできない後期セラーズの哲学を、道元や西田といった日本哲学の伝統とのつながりにおいて検討することを通じて、その哲学的重要性を示すことができたが、これも「セラーズにおける実在」の理解をめぐる仕事として十分な意義を認めることができると考えている。 また、国内外におけるワークショップでの発表と、国際共著書にも論文が受理されたことからも、おおむね順調に研究が進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度になる。これまでの成果を集約し、より洗練された内容をもった成果を公表することへとつなげるためにも、国際レベルでの学会における口頭発表を予定している。 また、成果となる論文については、国際レベルでの共著論文集への投稿を予定している。最終的な論文の執筆を準備する過程においては、複数の研究会・ワークショップでの発表を行い、ひろい範囲からのコメントをいただくとともに、それらの批判的コメントをフィードバックすることを通じて、より充実した内容の論文とすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外出張一件が、学内業務との兼ね合いにより実行できなかったため次年度使用額が生じた。なお、実行することができなかった出張については、次年度に日程を繰り越して実行する予定である。
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