研究課題/領域番号 |
26370013
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40262943)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プロメテウス / 製作技術 / 政治技術 / 使用の技術 / いましめ / つつしみ / プラトン / アイスキュロス |
研究実績の概要 |
技術と人間との関わりを問う最古の文書が、アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』である。プロメテウスが、人間に苦しみと悲惨から解放する技術と火を与えた物語である。プラトンは『プロタゴラス』で、この神話を再解釈し、技術に重要な区別を設けた。「製作技術」と、「いましめ」と「つつしみ」を基礎にして成り立つ、国家社会をなすための「政治技術」の区別である。製作技術は、身を護る武器を生まれつきもたない人間が自然環境に適応するために得た知恵である。しかし、原初の人間が悲惨な状態であっただけではなく、製作技術しかもたない人間も再び滅びる危機に陥り、人間の生存を可能にするのは政治技術とされる。人間の絶滅を心配したゼウスは、少数の専門家に与えた製作技術とは異なり、すべての人間に「いましめ」と「つつしみ」を分配して、この技術が成り立つようにした。政治技術が与えられるのは製作技術の後であり、タイムラグが存在するとされている。製作技術の場合、技術をもたない者が、もっていると主張すれば、すぐに偽りが明らかになるが、政治技術は程度の差はあれ万人に分有されているため、不正な者が自分が正しい人間であると主張しても、その偽りがすぐには見抜けない。現代でも製作技術は個別的な利便性をもちうるので、国家体制や政治的イデオロギーに関係なく、すぐに伝播するが、政治技術は製作技術から遅れ、しかも容易には与えられない。製作技術だけでは人間の生存の十分条件にはならないとするプラトンの認識には、長く続いたペロポンネソス戦争の敗戦によって、多くの同胞市民を失い、国土が荒廃した悲惨な現実を経験していたことが背景にある。二つの技術をめぐる問題状況は現代も続いている。製作技術から区別された政治技術は、プラトンの哲人統治の思想として主題化され、「製作の技術」と「使用の技術」の区別にも形を変えて引き継がれていくと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本務校で選挙で領域長に選出されたことにより、会議や教員評価の仕事が急激に増えたことがあり、また、学外でも文科省の仕事をはじめ、会議や評価の仕事が増大して、研究に振り当てる予定の時間を多く失うことになった。そのため、当初計画していたホメロスやアイソポスにおける技術についてのサーベイを十分に行うことができなかった。 ただし、今年度は、アリストテレスの『異聞集』の翻訳作業を通じて、『異聞集』には古代世界における技術に関する興味深い知見が含まれ、その内容が近代においては、ロバート・ボイルの最後の著作”Experimenta et Observationes Physicae” (1691)のなかに、"Strange Reports"というセクションを設けて、奇妙であるけれど、しかし、自然である諸現象を収録することにつながったことが分かった。そして、『異聞集』の本格的な註釈書を書いた、科学史家のヨハン・ベックマンが、テクノロジーという新語を作ったことを再発見できたことなどの計画していなかった成果もあった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は学外の仕事を極力減らすことによって、研究時間を確保し、当初の計画通り、古代原子論の技術論に正面から取り組むことにする。古代原子論は、プロメテウスの神話にあった技術論を真っ向から否定する議論を展開しており、その論述の思想的立場と後代への影響力を調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
達成度にやや遅れが生じていることと、海外注文していた洋書が品切りや延着のため年度内に届かなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は書籍のリサーチを早くして、注文を早期に実施することと、研究時間の確保につとめて、計画通りに研究が行える環境づくりに努める。
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