研究課題/領域番号 |
26370013
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40262943)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ルクレティウス / 原子論 / プロメテウス神話 / ピュシス / ノモス / 自然 / 技術 / 自然主義 |
研究実績の概要 |
古代原子論の技術論は、ルクレティウス『自然の本性について』第五巻で諸技術の発生と文明の発展史として扱われている。その特徴の第一は、脱神話化と合理的説明である。原初の人間の状態をか弱いとしたプロメテウス神話とは大きく異なり、人間が原初の状態において、身体が強く、他の野獣のように裸で暮らしていける生物学的適応ができていたと想定する。人間に火をもたらしたのは、雷のような自然現象であり、神々の働きは諸技術の発展の説明から排除される。第二に、家族の形成が文明の起源だとすることである。家族の誕生によって、自分の子供に対する愛情が人間の猛々しい性格を変え、弱いものを憐れむ掟の基礎になり、そのような倫理的掟が多くの者に守られた。第三の特徴が宗教批判である。自然の驚異への畏怖から宗教は誕生したとされ、人間が天上の働きや季節の変化、雨、雪、雷などの自然現象の原因を知りえなかったために、神々の計り知れない能力を想定して逃げ道をつくったにすぎないと、自然の観察に基礎を置く原子論の立場が宣言されている。 神話的な枠組みや神々の働きを排除し、人間は自然を導き手として技術を見出し、技術がもたらす生活の変化が人間の身体や精神に変化を及ぼしながら、長い年月をかけてさまざまな技術を発展させてきたという、経験論的で進化論的ともいえる技術と社会発展の説明は現代のわれわれにも説得的である。自然から目的と神意を排除する自然主義的世界観のモデルとして、古代原子論が、ロック、ヴォルテール、ディドロなどの啓蒙時代の哲学者やボイルやニュートンらの科学者に与えた影響は甚大である。しかし、古代原子論者にとって、技術と自然との関係はいかあったか。技術を導くものは自然とされるが、技術そのものは自然ではない。彼らの技術の概念は、自然と人為的なものを鋭く対立させる「ピュシス対ノモス」の対立概念の俎上にのせれば、ノモスの側に組み込まれる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度に引き続き、大学で領域長の役職にあり、教員評価の業績評価や、教育課程改革にともなう教員組織の再編を受けた教員評価制度の改革をはじめ、会議と実務の仕事が予想以上に多くなり、研究のための時間が圧迫されて、十分な時間がとれなかったことが研究の遅れの小さからぬ要因となった。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となるために、他の仕事を極力少なくして、本課題に取り組む時間を確保することが何よりも重要である。そのうえで、遅れている計画に8月9月に集中して取り組んで、予定の計画に近づけるようにする。とくに、古代原子論が与えた啓蒙時代の哲学者・科学者への影響についてより深く掘り下げて調査することによって、本課題の中核部分の成果をあげたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
発注が遅れたため、注文していた洋書等が年度内に到着しなかったために、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は洋書等の注文を早めて、前期に集中して予算の執行を行ないます。
|