研究課題/領域番号 |
26370014
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
遠山 敦 三重大学, 人文学部, 教授 (70212066)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 伊藤仁斎 / 倫理思想 / 『孟子古義』 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本近世の儒者伊藤仁斎の倫理思想を、その『孟子』注釈である『論語古義』諸稿本の分析から明らかにしようとするものである。 仁斎の倫理思想は、主として朱熹『集注』に対する批判的な検討に基づく経書注釈によって形成され、その成果は『論語古義』『孟子古義』『中庸発揮』『大学定本』として結実していくことになるが、そうした注釈の中から生み出された、『論語』を最高の経書とし、そこに描かれた人倫的世界像を絶対的なものと捉える仁斎学の立場は、いわば『孟子』を注釈として『論語』を解することによって成立したと言える。そうした仁斎学の性格は、性善説とそれに伴う仁義礼智釈、王道論、天命論などの『孟子』の主要テーマがその学の骨格を形成しているという事態に端的に反映している。このように仁斎学にとって極めて決定的な意義を持つ『孟子古義』だが、現在、その確定的なテキストは刊行されていない。本研究は現存する『孟子古義』諸稿本、とりわけ仁斎自筆あるいは仁斎がその作成に直接関わったとされるいわゆる「正本」四種(自筆本、元禄十年重訂本、元禄十二年改修本、林本)の分析を通じて仁斎の『孟子』解釈の変遷を辿りつつ、伊藤東涯らによって加筆編集された現在の刊本以前の、仁斎生前時のテキストの最終形態を確定するとともに、仁斎が批判的対象とした朱熹における「性」、「天命」、「王道」ら諸概念が、仁斎によってどのように批判され、彼独自の意義を持つに至ったかを明らかにすることで、仁斎倫理思想の一端を解明しようとするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、『孟子古義』の四種の「正本」につき、「巻一、梁恵王」「巻二、公孫丑」の二篇を中心に、その成立過程の分析を行った。とりわけ「梁恵王」篇で展開される「王道」論については、仁義を人倫世界全体において成立する外的な徳目と考える仁斎学の立場が、同じ仁義を個人に普遍的に内在する「理」と捉える朱子学の立場をどのように批判し展開していったかが注目された。またいわゆる湯武放伐論をどのように評価するかについて、朱熹との立場の違いも見いだすことができた。現代語訳について若干の遅滞はあるが、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初計画通り、本年度と同様の『孟子古義』四種「正本」の分析を、さらに「巻三 滕文公」、「巻四 離婁」、「巻五 万章」、「第六 告子」、「第七 尽心」の五篇について継続し、仁斎倫理学の成立過程を「性」「天命」などの主要概念の展開過程から考察してゆく。
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