本研究では後期ウィトゲンシュタイン(LW)の意味に関する洞察に基づく意味論「意味のデフレーショナリー理論」(DMLW)の理論化の可能性を探究してきました.今年度は特に2つの[研究目的1](DMLWと対立する真理条件意味論との関係の探究),[研究目的2](指標詞「私」とDMLWの関係の探究)を通じてDMLWをさらに精緻化するとともに次の3つの観点から正当化しました. まず「研究目的2」step2に取り組みLWが哲学を再開した後(~1930年末頃)TLPにおいて明らかになった欠陥を修正する枠組において,①指標詞「私」を有意義な命題の集合から完全に排除していること,②「意味の実在論」を採用していること,③それによって特異な仕方で独我論を擁護していることを検証しました.その過程でPBの「意味の実在論」のデフレーショナルな特質を解明し,草稿”Deflationary Semantic Realism in Early ‘Middle’ Wittgenstein” としてまとめました(現在投稿準備中). 次に『哲学探究』(PI )の規則論と感覚論(§243~315)の論理的関係の解明を通じてDMLWの「意味の反実在論」が「私的言語の不可能性」(→「独我論論駁」)を含意することを論拠づけました.その研究成果の一部について口頭発表(「意味の反実在論と私的言語批判 ―『哲学探究』における意味論と感覚論―」(2016/5))をおこないました. さらに上記のPI 規則論と感覚論との論理的関係の探究に基づいて,PIにおいて解釈が紛糾している§202について新しい解釈を提示するとともに,PI規則論と感覚論の論理的関係に新しい解明を与え,その内容について口頭発表“Why Is It Impossible to Follow a Rule ‘Privately’?” (2016/7)をおこないました.
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