| 研究課題/領域番号 |
26370018
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| 研究機関 | 岡山大学 |
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研究代表者 |
宮崎 宏志 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (30294391)
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| 研究分担者 |
新 茂之 同志社大学, 文学部, 教授 (80343648)
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| 研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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| キーワード | 共生 / 共通理解 |
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| 研究実績の概要 |
現在、障がい者の社会進出が強く求められ、健常者と障がい者との成熟した共生の形に関するさまざまな理論的モデルが提案されている。しかし、障がい者自身の側から、精緻な理論的モデルを提案しようとした取り組みは極めて少ない。健常者と障がい者とが真に成熟した形で共生するには、障がい者自身の観点から作成したモデルを、健常者が提示してきたモデルと突きつけあう作業が不可欠であり、そのためには、障がい者の観点から、健常者と障がい者との共生に関する哲学的モデルの構築をめざす取り組みが、今まで以上に行われる必要がある。しかも、障がい者と認定されるひとたちにとっての最大公約数的なニーズを特定し、そのニーズを満足させるような理論的モデルを構築することが重要なのではない。むしろ、健常者と障がい者とのあいだで、また、異なる種類の異なる状態の障がいをもつ者のあいだで、相手のおかれている状況や相手の抱えている苦しみに関していささかでも理解しあえる地平を切り開いていくことが肝要なのである。
このような問題意識のもとに、本研究は、他者理解のための想像力や暗黙知の洗練という側面を念頭におきながら、障がい者の観点から、健常者と障がい者との共生に関する哲学的モデルの構築をめざすものである。
平成27年度に、研究代表者宮崎と研究分担者新は、クレア・コズニック、クライブ・ベック著、『教員養成の新視点』（晃洋書房、2015年）の翻訳に携わり、「インクルーシブ教育」や「コミュニティー」を扱った章を担当することで、アメリカやカナダにおいて健常者と障がい者との共生のためにどのような教育が試みられているのかについて把握した。
また、平成27年度における中核的な研究実績としては、宮崎が本研究の成果を、日本道徳性発達実践学会第15回同志社大会において「「習慣」の発想に基づく他者理解の基礎」という題目で発表した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究動向の大要は、以下のとおりである。
研究代表者宮崎は、他者理解の基礎の確立・拡張を構想したジョン・デューイの思想を詳細に考察するとともに、障がい者文学に描写されているような世界観、特に、自らが障がいを抱えながら文筆活動に従事した作家の作品に描写されているような世界観を入念に検討している。そして、宮崎はその研究成果の一端を、平成27年度に日本道徳性発達実践学会第15回同志社大会において「「習慣」の発想に基づく他者理解の基礎」という題目で発表した。本発表での質疑応答を踏まえて、宮崎と研究分担者新は、検討会を開き、他者理解にかかわるデューイ思想の考察と、障がい者文学に描写されている諸々の世界観の分析をさらに推し進めていく必要性を確認したが、他方で、他者理解の基礎の確立・拡張という主題を扱ううえでは、マーサ・ヌスバウムがその独自のアリストテレス解釈で提示した「領地（terrain）」概念を批判的に吟味しておくことが不可欠であることも確認した。というのも、ヌスバウムが強調するような「領地」といったものが仮にあるとしても、健常者のそれと障がい者のそれとは大きく異なっていると考えられるからである。
また、宮崎と新は、平成27年度に、クレア・コズニック、クライブ・ベック著、『教員養成の新視点』（晃洋書房、2015年）の翻訳に携わった。その目的のひとつは、アメリカやカナダでの教育において共生のために何が試みられているのかを知ることであった。このように、宮崎と新は、共生のために現実に立てられている方策にも目配りしながら本研究に取り組んでいる。
新たな検討課題の発見に伴い必要とされる文献の収集という点では、やや遅れが生じてしまったが、上述したように、研究主題に関する展望が一層鮮明な形で開けてきたという点では、本研究は、おおむね順調に進展していると言える。
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| 今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の計画として、ひとつには、平成27年度までと同様に、本研究にかかわる文献を収集し、その記載内容に関して批判的に吟味する。特に、新たに見つかった検討課題にかかわる文献を中心に、そうした作業を行う。文献読解にあたっては、主として、研究代表者宮崎が、障がい者の側の観点から、関連文献を批判的に検討し、また、研究分担者新が、健常者の側の観点から、関連文献を批判的に検討する。それとともに、宮崎は、健常者と障がい者との共通理解の地平を示すことができるような理論的モデルの原案を作成するという役割を担い、また、新は、既存の理論の長所や問題点を明確にすることを通じて、宮崎の作成する原案を改善ないし補強するという役割を担う。
なお、本研究にかかわる政治学的な知見に関しては、本研究の研究協力者であり、政治学を専門にされている岡山大学名誉教授の岸本廣司氏から助言をいただくことになっている。また、想像力を洗練していくうえでの教育心理学的な知見に関しては、本研究の研究協力者であり、教育心理学を専門にされている岡山大学の青木多寿子氏から助言をいただくことになっている。岸本氏と青木氏の助言を参考にして、本研究の最終年度である平成28年度には、健常者と障がい者との共生に関する哲学的モデルを作成する。
さらに、平成27年度までと同様に、障がい者の発する言葉の意味は、その言葉の通常の意味に近似しているにすぎないという見方を新機軸にしながら、宮崎と新は、代表的な障がい者文学などを読み込んで、これまで見落とされてきたと思われる一面を浮き彫りにするような仕方での解釈を試みる。そして、そうした新しい形での解釈を提示していくことによって、健常者と障がい者とが真に対話や議論のできる土俵の拡大を図る。
本研究の最終年度である平成28年度は、関連学会への論文投稿を予定している。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
本研究で扱う思想文献としては、平成27年度の学会での成果発表までは、ジョン・デューイの文献を核としたプラグマティズム関連の文献に焦点を絞っていた。しかし、共生という主題を考察するうえでは、マーサ・ヌスバウムが独自のアリストテレス解釈で強調した「領地」の捉え方などに関しても批判的に吟味しておかなければならないことが明確になった。また、健常者にとっての障がい者の理解し難さは、歴史的には、障がい者が言わば「異人」として特徴づけられてきたことに象徴されているから、障がい者自身が書き著した作品だけではなく、異人的な存在者が登場する文学作品などにも目配りすることが重要であるとわかった。その結果、予算内で収集すべき文献に関して再検討を余儀なくされた。特に、海外文献の取捨選択に時間を要し、発注を次年度に持ち越す文献の数が増えてしまったため、平成27年度の予算の未使用分が生じた。
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| 次年度使用額の使用計画 |
共生や共通理解という主題に関して考察が深まったことに伴って新たに必要になった文献（例えば、プラグマティズム以外の立場から有望と思われる視座を提供している文献や、異人的な存在者が登場する文学作品や、そのような作品に関する研究文献など）の数が増加したことにより、平成27年度の予算の未使用分を含めた平成28年度の予算の大半は、本研究を展開させていくのに不可欠なそうした文献の購入費に充てられる。
また、平成28年度は、本研究の最終年度であるため、研究代表者宮崎と研究分担者新とは対面的な形で打ち合わせをすることも数回は必要であり、さらに、本研究に関連する学会への参加も予定しているので、平成28年度の予算はまた、旅費としても使用する。
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