研究実績の概要 |
本研究の目的は、J. サール『社会的現実の構築』(1995)の公刊以来、哲学と社会諸科学の連携の下で研究が進みつつある「社会存在論」(Social Ontology)の基礎概念と方法、およびその可能な拡張を検討し、これまで分析が十分でなかった制度的・文化的対象を包摂できる理論的枠組みを提案することであった。平成28年度は、この目的に従って、次の研究成果を公にした。 倉田剛(単著)「日常的世界の形而上学――人工物種に関する適切な理論の構築に向けて」(九州大学哲学会[編]『哲学論文集』, 第五十二輯, 1-28, 2016.09.) この論文において、われわれは、社会的・文化的実践の中で出会われる人工物(artifact)の実在性と本質を、それらが属する人工物種(artifactual kind)の適切な理論を模索するという仕方で明らかにしようとした。より具体的には、「確定性」と「心からの独立」を種の実在性の基準と見なす「自然種の標準的理論」、および近年の生物種に関する「個体説」の再検討から、「HPC説」の優位性を論じ、さらにHPC説の人工物種理論への適用を目指す二つの立場、すなわち「起源論的機能説」と「認識実践説」を吟味した。そのうえで、これら二つの立場が抱える困難を指摘し、われわれ自身の「志向説」と「起源論的機能説」とのハイブリッドのみが「人工物に関する適切な理論」たりえることを主張した。 また、抽象的人工物とフィクションに関する研究発表“A Dualism for Fictional Objects: Abstract Artefact and Nonexistent Object”を国際ワークショップ(「マイノング主義に関する東京ワークショップ」首都大学東京秋葉原キャンパス,2016年10月15日)で行った。
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