平成28年度は、民主主義とBI(ベーシック・インカム)とESD(持続可能な開発のための教育)との内的連関を解明するこれまでの研究を踏まえ、この連関を具体的な現代的問題について考察した。4月には名古屋哲学研究会のシンポジウム(2016/4/24)に神田浩史氏を招き、TPPと環境問題について報告いただいた。2016年6月28日から7月5日までドイツ・アラナス大学のリーバーマン教授を招聘し、法政大学(6/28)、立命館大学(6/30)、名古屋市立大学(7/2)と東京、京都、名古屋において研究者を中心にしたシンポジウムを開催した。BIがドイツ社会における労働(雇用・賃金)、福祉、家庭、教育、そして民主的政治共同体に関する新たな原理を提示していることが紹介され、日本の状況も含めて活発な議論が交わされた。これらを踏まえ、研究代表者は、〈民主主義、BI、ESD〉という理念複合体が現代日本が直面する諸問題を解決するための抜本的な方向性を打ち出しうるとの考えに至った。そのための具体例に即した試論を執筆した。すなわち、日本農業の持続可能性、持続可能な地域開発、少子高齢化における男女共同参画という問題について、〈民主主義、BI、ESD〉という理念複合体を導きの糸として分析を行った諸論文を公表した。転換期にある日本社会にとってBIの導入によって民主主義を活性化させ持続可能な社会を作り上げるべきだという論点を各テーマについて展開した。さらに2017年3月25日から31日にはドイツ・デュッセルドルフ大学の島田信吾教授を訪れ、ドイツの老人福祉施設も訪問して、市民的中間団体が支えるドイツの老人福祉制度を実地調査した。その結果、持続可能な少子高齢化社会という問題に関しても〈民主主義、BI、ESD〉という分析視座の重要性について再確認でき、今後の研究発展の方向性を得ることができた。
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