研究の最終年度にあたる平成28年度(昨年度)は、いくつかの論文や共著において、生き方の倫理学を考察する成果を残すことができた。 とりわけ、動物倫理への取り組みについて、これまでにはなされていない現象学的アプローチの可能性を示すことができた。動物の 心をめぐるアプローチは、動物とともに生きる人間の生き方の倫理学と結びつけることで、ブレンターノ、シェーラー、ハイデガーの 現象学的アプローチの新たな読解の可能性を引き出した(「ブレンターノ、シェーラー 動物の心」『続 ハイデガー読本』、法政大 学出版会、2016年、所収)。 さらには、記録映画を参考にする取り組みなどは、本研究の範囲を拡大することにつながっている(ワークショップ「映画から考え る生き方の倫理学」、2016年、12月、國學院大學)。記録映画作家の問題へのアプローチと応用倫理学のアプローチとを比較すること で、双方にとって有意義な対話が成り立つことが明らかになっている。記録映画作家は、さまざまな問題に眼を向けながらも、問題を 問題として描くだけではなく、そこにかかわる人々の生き方に目を向けることがある。このような問題への取り組みの姿勢は、倫理学 者も学ぶべきことが多いだろう。今後、生き方の倫理学をめぐる研究を応用倫理学の問題へと転換することに道を拓くことになった。 期間を延長した平成29年度には、刊行が遅れていた著作『ワードマップ 現代現象学』が出版された。そこでは、生き方の倫理学としての現象学的倫理学の可能性を明らかにすることができた(共著)。とりわけ、第6章と第9章は、道徳や人生などのトピックについての論述になっている。
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