本研究の目的は、和辻哲郎、そして西田幾多郎の思想において、すでに多くの研究がなされているにもかかわらず、いまだ明確になったとは言い難い、儒教思想との関わりをとりあげ、儒教が彼らの思想のなかで、どのような変容を遂げ、また再構築されたかを考察するところにあった。 本研究は、まず和辻哲郎の思想など、日本近現代の倫理思想から捉えられる儒教の基本概念を考察し、その上で江戸時代の儒教、また朱子学における基本概念の再検討を行うことによって研究方法における基本的な枠組みを形成した。またこの研究には、日本の近現代思想体系における儒教の位置づけのみならず、日韓の儒教を媒介とした東アジア思想史構築への可能性をも打診する未来志向的な観点も加わった。 一方、本研究においては、「儒教は反文明論なのか-福沢諭吉の儒教批判を中心に」(『比較思想研究』44号、2018.6)を発表し、いわゆる日本の啓蒙思想と儒教との相関性に関する研究を行い、近代思想における儒教の思想的拡張性についても言及した。 研究最終年度である令和元年度(2019年度)においては、今までの研究成果を土台に「日本近世儒学における「心」の問題」(『日本女子大学紀要人間社会学部』30号、2020.3)を発表した。「心」の問題を中心テーマに掲げたこの論文では、まず和辻哲郎の「儒教本来の姿」に対する分析が施され、また朱子学と伊藤仁斎をはじめとする日本近世儒教との比較、つまり論の立脚点の違いによる相違点などが論じられた。そのような問題を踏まえつつさらにこの論文においては朝鮮の丁若鏞の思想と日本の近世儒教とを比較することによって、近代日本の倫理学における儒教の特徴及び変容を再考察し、それで以て東アジアの儒教史あるいは倫理思想史構築の一端を伺おうとした。
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