研究課題/領域番号 |
26370033
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
福間 聡 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (40455762)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 労働 / ジョン・ロールズ / ベーシック・インカム / 財再所有の民主制 / 働くことの意味 |
研究実績の概要 |
平成26年度は労働の問題にウェイトを置き、「労働の権利」と「有意義な労働・仕事」という二つのテーマを考察することによって「働くことの意味」を探求した。 我々はコミュニティの一員として「生きる権利」を有していると考えられているが、では「労働の権利」を有していると考えられているのか、という問題設定のもと、この問題に関する内外の文献研究を行った。労働は賃金だけでなく、人との関わりや規則正しい生活(健康)、そして自尊心をも与えてくれる。このように労働という活動は他の活動とは異なる特別な地位を有しているため、「労働の権利」を人びとに保証すべきだという要求が一方には存在する。しかしながら労働が有しているこうした特別な価値は労働それ自体の本質に由来するものなのか、それとも労働に対して我々の社会(資本主義的福祉国家)が付与している意味づけから由来しているものであるのだろうか。 私は後者の見解の立場から、「働くことの意味」を相対化し、全ての人がフルタイムで働くことが不可能である社会状況のもとでは、賃金労働を特権的な活動と見なすのではなく(それゆえ「労働の権利」を要求するのではなく)、それ以外の社会貢献的な活動によっても自尊心や人との関わり、そして健康が得られる社会が望ましく、公正な社会でもあるという結論に至った。更に「有意義な労働・仕事」とは働いている本人の理性的な視点・解釈によって定められるものであり、客観的なものではないという結論にも至った。 非労働的な社会貢献的活動を行うための土台として、そして自分の行っている活動が(賃金労働も含めて)有意義であると本人が見なすことを可能とするためには、一定の所得保障というものが必要であるということが研究の結果、判明した。 平成26年度の研究の成果の一部は『「格差の時代」の労働論』(2014年9月 現代書館)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「働くことの意味と所得保障政策との規範的な関連性」について検討することにある。労働を取り巻く日本社会の現状を踏まえて、①「働くことの意味とはなんであるのか」、②「働く権利を人びとに付与することは可能であるのか」、③「ベーシック・インカムのような所得保障政策と労働への権利は両立可能のであるのか」といった諸問題を本研究では考察している。平成26年度はとりわけ①と②の問題を探求し、研究実績の概要のような結論に至った。それゆえ研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策であるが、平成26年度に得られた研究結果を基にして、「働くことの意味」という観点から望ましい所得保障政策について平成27年度は考察する。すなわち、所得保障に関する実証的研究と規範的研究を参照しながら、日本社会の現状において、いかなる所得保障政策が望ましいのかを探求する。 実証的研究に関しては厚生労働省や総務省が発行している各種の白書や、研究者によるアンケート調査等に基づく論文を参照し、また福祉政策を専門にしている学内外の研究者らと勉強会を行うことを通じて研究を行う。 規範的研究に関しては、「財産所有の民主制」の可能性を探究する。我々にとっての働くことの意味と最も適合的である所得保障政策は「ベーシック・インカム」であると私は考えているが、現状の資本主義的福祉国家では「有意義な労働」と「ベーシック・インカム」を共に実現することは不可能である。実現のためにはロールズ等が構想する「財産所有の民主制」という新たな体制が要求される。 ではこのような政治体制とは具体的にはどのようなものであるのかについて、内外の文献の批判的検討を通じて平成27年度は考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は旅費を用いて学会や研究会に行く時間的余裕が無かったため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は教育と研究のバランスととり、積極的に学会や研究会に参加することで、旅費を使用したい。
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