研究課題
これまでの三年間の研究成果を踏まえ、平成29年度は引き続き、①ジョン・ロールズが構想する財産所有の民主制におけるベーシックインカムの新たな位置づけと、②AI化された社会における人生の意味と幸福についての研究を実施した。またこれらの研究を土台にして、政治哲学において近年盛んに論じられている「理想理論Ideal Theory/非理理想理論Nonideal Theory」の観点から、「非理想理論としてのベーシックインカム」という問題にも取り組んだ。ロールズはすべての健康な成人が有意義に働く(所得を得る)ことができる状況を理想的な社会・経済状況であると考えていたが、現今や将来のグローバル化とAI化を鑑みるならば、この理想を実現することは困難であるように思われる。それゆえロールズの当初の政治的理想・理念を実現することが不可能な状況(非理想的な状況)下にあっては、彼が重視する「自尊の基礎」や「生きがいのある生」をすべての市民に保障するために、ベーシックインカムの実施が非理想理論の観点から正当化できるのではないか、という問題ついて考察を行った。この研究の結果、ロールズの政治哲学を「理想的である」として批判する論者たちに対する応答として、ベーシックインカムが「秩序だった社会」における経済・政治政策の代替案(非理想理論)として擁護しうるという結論に至った。
2017年6月 The 2016 Basic Income Studies Essay Prizeを“Meaningful Work, Worthwhile Life, and Self-Respect: Reexamination of the Rawlsian Perspective on Basic Income in a Property-Owning Democracy”論文にて受賞
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Basic Income Studies
巻: 12 ページ: 1-10
https://doi.org/10.1515/bis-2017-0011
地域政策研究
巻: 20:1 ページ: 15-33