本研究は、20世紀に展開した解釈学を出発点のディルタイに遡って吟味することによって、解釈学の新たな展開を提示することを目的としている。 この目的を本研究は3年間で達成するために、最終年度の本年は、解釈学による歴史的社会的現実の未来へ向けた創造性の解明を目指した。すなわち、まず、20世紀の解釈学が理解概念を中心にして「可能性への投企」(ハイデガー)から「地平融合」(ガダマー)へ、そして「テキスト世界」(リクール)へ変遷してきたことを明らかにした。そうすることによって、解釈学が〈現象・構造・理解〉の統一的連関に基づいて過去から未来への歴史的社会的現実の連関を創造的に形成しうる点を提示した。そのさい本研究では、とりわけ、ディルタイからハイデガーへの解釈学とは「別の路線」の解釈学、すなわちゲオルク・ミッシュの生の哲学および解釈学的論理学に注目して、解釈学の創造性を生そのものの深みと多様性に求めることを試みた。すなわち、〈現象・構造・理解〉に即して分節すれば、生の〈現象〉はその深みにある〈究め難きものと思考適合性の緊張関係〉からの多様な歴史的創造の現れに求められ、その創造を導く〈構造〉はミッシュの提示する生のカテゴリーの紐帯「惹起(能動と受動、力)と意義化(価値、目的、意味)の対立」に求められ、その〈理解〉は生の語りを理解することとし表出される「語り」に求められるのである。したがって、語りも生と同様に生の深みの緊張関係から歴史的社会的な語りとして創造的に産出されるのである。 かくして解釈学とは〈現象・構造・理解〉の統一的連関として語りを理解しそれを語り出す学であるという、解釈学自身の営みに解釈学の創造性を求めることができるのである。 以上は、本科研費によるディルタイ・テキスト研究会を開催し(本年度4回)、相互批判を介して遂行した。その成果は学術論文として公表した。
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