明朝永楽年間に編纂された三大全のひとつである『性理大全書』それ自体の流布状況と、『大全書』の普及版ともいえる「新刊性理大全」諸版本の拡大状況を書誌学的に調査分析するとともに、明代の知識人に『大全書』がどのように受容され、かつその土壌のうえに如何なる成果が生み出されたのか、またそれが『大全書』というテキストに対し逆にどのような変化をもたらしたのかを思想史的に分析してきた本課題において、最終年度の本年度は、浙江大学所蔵、永楽『大全書』の後印本を調査することがかない、『大全書』それ自体についても、一定程度の流通していた可能性を推測することができた。ただし、その結果、中国大陸の諸機関が収蔵する『大全書』ないし「新刊性理大全」に関しては、今後も調査を続ける必要性があることをも痛感した。 思想史的研究の方面では、明末期における三大全全体を改定しようとする動向を、いわゆる復社人士の文章を読むなかで明らかにし、『大全書』改定の方向性に関しても考察することがすることができた。 なお、応用科挙史学研究会第17回研究集会では、「良知の行方-荒木見悟先生『陽明学の位相』に寄せて」と題する研究発表をおこない、先人の学問的業績を今後どのように生かすべきかといった主題のもと、参加者と討論をおこなった。とくに、荒木先生がかつて提起された「本来ー現実」の二項関係を明末人士の文章を分析する際に利用することの意味・意義について話し合い、その安易な使用は自戒すべきだとの方向で一致をみたことは、『大全書』の受容と変容を考えるうえでも、大いに参考になった。この研究発表に関しては、その改定版を中国上海の復旦大学において発表し、さらには『集刊東洋学』第118号に投稿することとなった。
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