研究課題/領域番号 |
26370044
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
末永 高康 広島大学, 文学研究科, 准教授 (30305106)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 礼学 / 『礼記』 / 『大戴礼記』 / 『儀礼』 |
研究実績の概要 |
本年度は両戴記中の礼の義を解説した諸篇のうち、『儀礼』の礼の義を解説したとされる諸篇と、『礼記』礼器、郊特牲、『大戴礼記』朝事、本命の諸篇を中心に読解および分析を進めた。その内、昏義篇後半および郷飲酒義前半については、注疏を含む訳注を『東洋古典学研究』第40集、41集に掲載した。 本年度中に論文として発表した研究実績は、『礼記』の冠義以下六篇の、従来、今文礼の義を説いたと目されていた諸篇についてである。 『礼記』郊特牲篇には、『儀礼』士冠礼の「記冠義」重複文と並べられ、「記昏義」とでも称すべき昏礼の義を記した部分であり、その一部が郭店楚簡『六徳』と重複している。この「記昏義」が昏義篇を利用するものであることを論証し、かつ「記昏義」の一部が『韓詩外伝』に引用されていることから、昏義篇の成立の下限を前漢初期に確定することができた。 さらに、冠義篇以下六篇の構成を分析し、各篇ともに由来を殊にするいくつかの資料から構成されているものの、その核となる部分においては、その論述形式、解経意識を共有しており、それらがほぼ同じ時代に同じ思想傾向を持つグループによって作成されたものであること示し(射義篇を除く)、また、この部分の成立の上限が『儀礼』士冠礼等の「経」「記」の成立に置かれ、下限が『礼記』哀公問篇および『荀子』楽論篇の成立に置かれることを示した。 このことは、冠義篇以下六篇(射義篇を除く)の中核部分が、先秦時期に成立した可能性が高いことを示しており、これらの篇を漢代に成立した今文礼の義を説くものとする、これまでの見解が成立し得ないことを示している。 なお、上記の成果については、『東洋古典学研究』第41集に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎的作業となる両戴記各篇の読解については、ほぼ予定のペースで進められており、その訳注成果を日本、学術誌に掲載することができている。 昨年度、当初予定になかった『儀礼』の分析に多くの時間が費やされたため、本年度中に論文として発表できた成果は、当初予定では昨年度に配当していた『礼記』冠義篇等六篇の分析に限られることになってしまったが、この分析においては『礼記』郊特牲篇や『大戴礼記』朝事篇等、当初予定では本年度または来年度に分析される予定の諸篇の分析も含まれる形になっており、総体として本研究全体が遅滞しているわけではない。 よって、現時点において、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以後も、両戴記中の礼の義を解説した諸篇の読解を継続し、その成果の一部を訳注の形で公表していく。 次年度は、本研究の最終年度に当たるが、訳注作業をのぞく研究の重点は次の二点に置かれることになろう。一つは、今年度解析した『礼記』冠義以下六篇と、他の礼の義を解説した諸篇との関係である。従来の研究において、前者は今文礼の義を説いたもの、後者(の一部)は古文礼の義を説いたものとされていたが、本年度の研究によって前者が今文礼の義を説いたものでないことが明らかになり、両者の関係が改めて問われなければならない状況になっている。前者と後者は無関係であるのか、どちらかがどちらかの展開であるのかを見極めながら、初期礼学の流れの解明に資する研究を行っていく。 もう一つは、喪・祭に関する義を説いた諸篇についての分析である。本年度までの研究においてはいまだ分析を進めていない『礼記』祭法、祭義、祭統等の篇の分析を進めながら、これまでに研究を進めてきた喪礼に関する義を説いた諸篇についての分析結果を結合して、喪礼および祭礼に関する初期礼学の諸相を明らかにしていく。その際にも、本年度の研究による、冠義以下六篇の分析における手法・成果が活用されることになろう。 以上の二点を中心としつつ、両戴記中の礼の義を説いた諸篇について、これを礼学形成史の資料として用いていく道筋をつける、という当初計画の目標を到達していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入予定の図書が本年度中に出版されず、その購入予定の費用が未使用となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定の図書が出版され次第購入する。
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