両戴記と『儀礼』に見える「玄酒」に関する記述を分析し、『儀礼』の各礼で用途を持たずに虚設される単なる真水が「玄酒」と呼ばれ最上の酒として位置付けられていく過程を明らかにすることによって、『礼記』の坊記、礼運、礼器、郊特牲、楽記および『大戴礼記』の礼三本の各篇の相対的先後関係がほぼこの順であることを明らかにするとともに、これらの篇の成立が先秦に遡るものであることを明らかにして、これを先秦礼学史の資料として用いる道筋をつけた。 さらに、『礼記』祭法篇が内包する廟制の姿を明らかにして、これが前漢廟制論議の骨格を与えていることを示すとともに、楚簡の卜筮祷祀記録に見える五祀や人鬼の祭祀対象の状況や秦簡の日書に見える五祀の記録を利用して祭法篇の成立が先秦に遡るものであることを明らかにして、これを先秦礼学史の資料として用いる道筋を開いた。 前年度に議論した『礼記』の冠義以下の六篇を加えると、研究実施計画で分析することを予定していた両戴記の礼の義を説く各篇の主たる三領域(『儀礼』の義を説明した各篇、礼運以下の三篇、祭法以下の祭祀の義を説明した三篇)について一通りの解析を行い、その少なからぬ篇についてそれが先秦の成立であることを導いて、両戴記を用いて先秦礼学史の議論を行うことの基礎を築いたこことになる。 また、『礼記正義』の郷飲酒義篇の後半部、射義篇の前半部の訳注を『東洋古典学』誌上に発表し、研究期間全体を通じると、『礼記正義』の巻六十一全体と、巻六十二の約三分の一の訳注を公開できたことになる。
|