研究課題/領域番号 |
26370046
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
伊香賀 隆 佐賀大学, 地域学歴史文化研究センター, 特別研究員 (20722995)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 朱子学 / 易学啓蒙 / 宋明儒学 / 江戸儒学 / 河図洛書 / 象数易学 / 安東省菴 |
研究実績の概要 |
柳川古文書館(福岡県柳川市)には、柳川藩儒・安東省菴関連の文献が数多く所蔵・寄託されているが、その中に省菴の自筆稿本『啓蒙難解』三巻(上中下)がある。これは、省菴が、朱熹の『易学啓蒙』に関する解説書を蒐集・編纂したものであるが、本研究では先ずこの書の内容を明らかにすることで朱熹の『易学啓蒙』に再び光を当て、その思想解明への第一歩としようとするものである。 初年度は、年次計画に従って先ず安東省菴『啓蒙難解』巻之上を検討し、全ての出典及びその構成配列を明らかにした。さらに、引用文献についても調査を進め(柳川古文書館、内閣文庫、九州大学等)、南宋から明にかけて中国や朝鮮において、『易学啓蒙』がどのような流れで研究されてきたのかを明らかにすることができた。なお、省菴が直接または間接に引用した文献は以下の通りである。『易学啓蒙通釈』(南宋 胡方平撰)・『天原発微』(元 鮑雲龍撰)・『性理大全』「啓蒙難解」章(明 胡広編)・『易学啓蒙補要解』(朝鮮世祖撰、崔恒他編)・『易学啓蒙意見』(明 韓邦奇撰)・『啓蒙伝疑』(朝鮮 李滉)・『周易古今文全書(周易全書)』(明 楊時喬撰)、中でも『易学啓蒙補要解』『啓蒙伝疑』『周易古今文全書(周易全書)』の三書からの引用が最も多かった。以上の研究成果を、東洋学研究所研究発表例会(平成26年7月5日、東洋大学)で発表し、さらに「朱熹『易学啓蒙』研究序説(一)~安東省菴の研究~」と題し『東洋学研究』第52号(平成27年3月)において途中報告を行った。 また上記と並行して、内閣文庫(2014.7.7)・九州大学(2015.2.13、3.18)において、江戸期における省菴以外の『易学啓蒙』研究書(林鵞峯・三宅尚斎・浅見絅斎・馬場信武・若林強斎・金子霜山・佐藤一斎等)の調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、年次計画に従って先ず安東省菴『啓蒙難解』巻之上を検討し、全ての出典及びその構成・配列を明らかにした。さらに、そこに直接あるいは間接に引用されている全文献の調査を進め、可能なものは購入し、その他はデジタルカメラで撮影を行った(於柳川古文書館、内閣文庫、九州大学等)。これらの引用文献一点一点を精査することで、南宋から明にかけて、中国や朝鮮において、どのような流れで朱熹の『易学啓蒙』が研究されてきたのかを明らかにすることができた。そして省菴の『啓蒙難解』が、中国や朝鮮における重要な先行研究をしっかりと踏まえた上で編纂されたものであり、難解な思想内容を容易に理解できるよう様々な工夫がなされていることが明らかとなった。ただ当初の計画では、巻之中まで検討を終わらせるはずであったが、引用文献の書誌調査に多くの時間を要したため、現段階では未了である。しかし初年度において、『易学啓蒙』に関する基本文献の蒐集(もしくはデジカメ撮影)・書誌調査を完了することができたので、二年目以降は十分に速度を上げていけるはずである。また並行して、安東省菴以外の江戸期における『易学啓蒙』研究書の調査を進めた。初年度において調査できた主な資料は、以下の通りである。
【内閣文庫】三宅尚斎『易学啓蒙筆記』/林鵞峯『易学啓蒙私考』 【九州大学】馬場信武『易学啓蒙図説』(碩水文庫)/若林強斎『易学啓蒙師説』(碩水文庫)/浅見絅斎『絅斎先生易学啓蒙説帯講書』(碩水文庫)/浅見絅斎『啓蒙補要解』(崎門文庫)/金子霜山『易学啓蒙纂畧』(崎門文庫)/浅見絅斎『絅斎先生易学啓蒙序講義』(坐春風文庫)/佐藤一斎『易学啓蒙図考』(吉村文庫)/佐藤一斎『易学啓蒙欄外書』(吉村文庫)
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、安東省菴の『啓蒙難解』巻之中・巻之下の検討を進める。先ず、出典及びその構成配列を明らかにし、次に思想内容を検討していく。そしてその研究成果を研究会等で発表し、「朱熹『易学啓蒙』研究序説(二)~安東省菴の研究~」と題し『東洋学研究』第53号において途中報告を行う計画である。さらに、初年度に書誌調査を完了した巻之上の思想内容(河図・洛書を中心に)をさらに詳細に検討し、その成果を学術雑誌に投稿予定である。 上記と並行して、江戸期における安東省菴以外の『易学啓蒙』研究書の調査も進めていく。江戸期における研究は山崎闇斎系統を中心に、比較的多く確認することができる。初年度は、内閣文庫・九州大学(碩水文庫・崎門文庫・坐春風文庫・吉村文庫)において調査を行ったが、さらに範囲を日本全国に広げていきたい。最終的には、蒐集したこれらの資料の思想内容を検討・比較していくことで、それぞれの特色を浮き彫りにし、江戸期における『易学啓蒙』研究史を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書購入予定であったが、平成26年度の購入が平成27年2月中までであるということを知らず、購入することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
中国哲学関係図書を購入
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